研究課題/領域番号 |
19K07256
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
黒田 有希子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70455343)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨芽細胞 / 骨形成 / コラーゲン / 石灰化 / 耳小骨 / 骨基質 / 骨密度 |
研究実績の概要 |
本研究は、マウス全身骨格の中で最も骨密度の高い耳小骨に着目し、「骨密度の高い骨が生み出される仕組み」を明らかにすることを目的としている。具体的には、耳小骨に存在する新規骨芽細胞「超石灰化骨芽細胞」を同定し、一般的な骨芽細胞と比較することで骨密度の高い骨が形成される分子メカニズムを明らかにする。 一般的な骨芽細胞は骨基質となる線維性コラーゲンとしてⅠ型コラーゲンを発現している。これに対し、超石灰化骨芽細胞はⅠ型に加えてⅡ型コラーゲンを発現している。この結果をふまえて、まず、骨基質に注目し、骨密度の高い耳小骨と平均的な骨密度をもつ大腿骨、それぞれの骨基質の産生速度と骨基質を形成しているコラーゲン繊維の太さを計測した。その結果、耳小骨を形成する超石灰化骨芽細胞は大腿骨などを形成する一般的な骨芽細胞よりも骨形成速度が遅いが定常状態時の石灰化度が高い、つまり、より骨密度の高い骨を産生していること、耳小骨を形成しているコラーゲン繊維の直径は大腿骨よりも細いことが分かった。これらの結果から、超石灰化骨芽細胞と一般的な骨芽細胞は異なる骨基質を産生し、超石灰化骨芽細胞が産生する基質の方がより石灰化成分を含有し易いことが明らかとなった。 また、サイトカインの添加や細胞密度を変えることで一般的な骨芽前駆細胞株でもⅡ型コラーゲンの発現が誘導できる条件が見つかりつつある。この結果は超石灰化骨芽細胞の前駆細胞が一般的な骨芽細胞と同じであることを示唆しており、今後は一般的な骨芽前駆細胞を超石灰化骨芽細胞へ分化させるために必須な分子メカニズムを明らかにすることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨密度の高い耳小骨と平均的な骨密度を有する大腿骨を比較することで、骨形成速度や石灰化度、骨基質の違いが明らかとなり、超石灰化骨芽細胞が一般的な骨芽細胞とは異なる性質をもつ細胞であることが証明できた。また、超石灰化骨芽細胞が産生する骨基質が石灰化成分を含有し易いことが分かり、骨基質に注目することが「骨密度の高い骨が生み出される仕組み」の分子メカニズムを解く上で重要であることが示唆された。現在、コラーゲンのみならず、非コラーゲン性の骨基質タンパクについても解析を進めている。培養細胞を用いた実験では、超石灰化骨芽細胞の前駆細胞が一般的な骨芽細胞と共通の前駆細胞であることが示唆された。これらの結果から、「耳小骨の骨基質に含まれる分子を一般的な骨芽前駆細胞株に作用させることで超石灰化骨芽細胞が分化誘導される環境を明らかにする」、という今後の方針が定まった。
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今後の研究の推進方策 |
実験計画当初は、今までに一般的な骨芽細胞の前駆細胞をラベルすることが分かっているCol2a1-creマウスやOsterix-creマウス、Runx2-creマウスを用いたlineage tracingを行うことで超石灰化骨芽細胞前駆細胞の同定を目指していた。しかし、培養細胞を用いた実験から、超石灰化骨芽細胞の前駆細胞が一般的な骨芽細胞と共通の前駆細胞であることが示唆された。このため、超石灰化骨芽細胞前駆細胞の同定よりも「超石灰化骨芽細胞の特異的マーカー遺伝子の探索」と「in vitroにおける超石灰化骨芽細胞の分化誘導系の確立」を優先して行うことにした。また、超石灰化骨芽細胞と一般的な骨芽細胞の違いを見分けるツールとして用いることを予定していたCol1a1-GFPトランスジェニックマウスに関しては、GFPとⅠ型コラーゲンの発現が必ずしも一致しないことが分かった。実際、耳小骨の超石灰化骨芽細胞は、GFP陰性であるがⅠ型コラーゲンを発現していることが免疫染色などで確認できた。この結果から、GFPの発現に用いているCol1a1プロモーターの活性が超石灰化骨芽細胞と一般的な骨芽細胞の違いを見分けるツールとして使用できるかどうか、超石灰化骨芽細胞の特異的マーカー遺伝子の探索と並行して、注意深く検証していく必要がある。
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