研究課題/領域番号 |
19K07256
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
黒田 有希子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70455343)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨芽細胞 / 骨形成 / コラーゲン / 石灰化 / 耳小骨 / 骨基質 / 骨密度 |
研究実績の概要 |
多くの成獣哺乳類では耳周辺の骨が硬く、骨密度が高いことが知られている。また、骨形成不全を呈する疾患では難聴を伴うことから、骨密度が高いことは、耳の骨が持つ機能においても重要であると推測できる。しかしながら、耳周辺の高石灰化骨が一般的な骨よりも硬くなるメカニズムはよくわかっていない。そこで本研究は、マウス全身骨格の中で最も骨密度の高い耳小骨に着目し、「骨密度の高い骨が生み出される仕組み」を明らかにすることを目的としている。 マウスの耳周辺部の聴覚に関連する骨は軟骨が骨に置き換わる内軟骨性骨化により形成され、約3週間(離乳時期)で耳全体が石灰化骨へ置き換わる。生後3週間目のマウスで骨密度を計測したところ、聴覚関連の骨は長管骨よりも骨密度が高かった。この結果から、耳の骨では、一般的な骨が老化の過程で硬くなるのとは異なり、発生過程において骨を高石灰化するメカニズムが存在することが示唆された。 我々はこれまでに中耳や内耳の高石灰化骨を形成する骨芽細胞が、長管骨を形成する一般的な骨芽細胞とは異なりII型コラーゲンを発現することを見つけ、聴覚関連の骨は骨基質が特殊である、と主張してきた。そこで、骨に埋まっている骨細胞の解析も行ったところ、骨芽細胞だけでなく、骨細胞もII型コラーゲンを発現していることがわかった。さらに、このII型コラーゲンを含む組織が軟骨ではなく、骨であることが、放射光を用いたX線位相顕微鏡トモグラフィや組織学的解析から明らかとなった。以上の結果から、我々は耳の高石灰化骨を形成する特徴的な骨芽細胞を“聴覚骨芽細胞(Auditory osteoblast)”と名付けた。聴覚骨芽細胞によって造られた骨は、骨密度だけではなく、アパタイト配向性が一般的な骨よりも高かった。骨密度とアパタイト配向性は音速と正の相関を示すことから、聴覚骨芽細胞は振動を伝えやすい骨を造ると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨密度の高い聴覚関連の骨は、1.一般的な骨芽細胞とは異なる「聴覚骨芽細胞」によって形成されること、2.骨基質タンパク質としてI型に加えてII型コラーゲンが含まれること(一般的な骨はI型コラーゲンのみ)、3.聴覚骨芽細胞によって造られた骨はカルシウム含有量が高いこと、4.アパタイト配向性(リン酸カルシウム結晶の整列度合い)が高いこと、を論文としてまとめることができた。 今までの研究過程において、聴覚骨芽細胞と一般的な骨芽細胞は共通の骨芽前駆細胞 (Col2a1-Cre陽性)に由来することは分かっている。しかし、これら2種類の骨芽細胞における遺伝子発現パターンや分化過程の相違点については詳細な比較解析ができていない。
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今後の研究の推進方策 |
生後3週間目のマウス全身骨格を解析した結果、聴覚関連骨に加え、上腕骨と脛骨の一部も骨密度が高いことが分かった。しかしながら、聴覚骨芽細胞の特徴であるII型コラーゲンの発現は、上腕骨や脛骨では検出できていない(未発表データ)。一方、聴覚骨芽細胞と一般的な骨芽細胞の違いを見分けることができるCol1a1-GFPトランスジェニックマウスを用いると、骨密度の高い聴覚関連骨・上腕骨・脛骨では骨形成部位においてGFP陰性の骨芽細胞が観察されるのに対し、一般的な長管骨ではGFP陽性の骨芽細胞が観察される。つまり、骨密度が高い部位の超石灰化骨芽細胞はCol1a1-GFP陰性という共通の特徴を持つ。また、これまでの実験結果から、骨形成部位に存在する全ての骨芽細胞の共通マーカータンパク質としてオステオカルシンが挙げられる。今後はCol1a1-GFPとオステオカルシンの発現、および骨の部位の違いから、「超石灰化骨芽細胞の特異的マーカー遺伝子の探索」を行っていく予定である。
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