研究課題
哺乳類の全身骨格を構成する200個以上の骨はそれぞれ固有の機能や形態を持つだけではなく、その骨密度にも固有の特徴があることが分かった。成獣マウスにおいて骨密度が際立って高い耳小骨、上腕骨遠位部、および脛骨遠位部を解析したところ、一般的な骨芽細胞マーカーとして用いられるI型コラーゲン(Col1a1)2.3kbプロモーターの活性がほとんどない骨芽細胞が骨基質を産生していた。本研究では、この新たな骨芽細胞群と一般的な骨芽細胞との違いを明らかにし、骨密度の高い骨を形成する分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。マウス耳周辺部の聴覚に関連する骨は軟骨が骨に置き換わる内軟骨性骨化により形成され、約3週間(離乳時期)で耳全体が石灰化骨へ置き換わる。生後3週間目のマウスで骨密度を計測したところ、聴覚関連の骨は長管骨よりも骨密度が高かった。この結果から、耳の骨では、一般的な骨が老化の過程で硬くなるのとは異なり、発生過程において骨を高石灰化するメカニズムが存在することが示唆された。また、聴覚に関連する骨を造っている骨芽細胞と骨細胞の特徴としてII型コラーゲンを発現していることが分かった。その結果、聴覚関連骨と一般的な骨は異なる骨基質から成り、II型コラーゲンを含む聴覚関連骨の方がより石灰化成分を含有し易いことが明らかとなった。耳小骨以外の高骨密度部位である上腕骨遠位部、および脛骨遠位部ではII型コラーゲンを発現する骨芽細胞の存在は確認できなかったため、我々は耳の高石灰化骨を形成する特徴的な骨芽細胞を“聴覚骨芽細胞(Auditory osteoblast)”と名付けた。聴覚骨芽細胞によって造られた骨は、骨密度だけではなく、アパタイト配向性が一般的な骨よりも高かった。骨密度とアパタイト配向性は音速と正の相関を示すことから、聴覚骨芽細胞は振動を伝えやすい骨を造ると考えられた。
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J Bone Miner Res
巻: 36 ページ: 1535-1547
10.1002/jbmr.4320
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