研究課題
全身に張り巡らされた毛細血管は、血液を介した物質交換の場であり、その構造的特徴から連続型と有窓型に大別される。有窓型の血管壁には“窓”と呼ばれる直径約70 nm程度の穴構造が多数存在している。有窓型は主に内分泌器官や小腸などの物質交換が盛んな器官に分布しており、ホルモンや栄養素といった大型分子は窓を通過して血液-組織間を行き来している。このように、窓は物質交換にとって必須の構造であるにも関わらず、その形成機序については不明な点が多い。一方で、細胞外マトリックスは毛細血管の外周を覆う基底膜の主成分であり、その構成は血管型によって異なっている。また、細胞外マトリックスが内皮細胞における窓の維持に重要なことが知られるが、その分子実体はいまだ不明である。申請者はこれまでに、ラット下垂体前葉と大脳からの有窓型および連続型内皮細胞を対象にマイクロアレイによる比較解析を実施し、有窓型群で高発現する複数の細胞外マトリックス分子を抽出している。本年度は、これらの候補分子の組織発現・分布解析を明らかにするため、ラット下垂体と脳を対象に、①mRNA発現細胞をin situハイブリダイゼーション法で、②タンパク質の組織分布を蛍光免疫染色法で調べた。これらの結果から、血管内皮細胞と周皮細胞が合成するコラーゲン15A1が毛細血管周囲の基底膜に特徴的に発現することを見出した。また、ラット下垂体から単離・回収した有窓型内皮細胞の培養方法を模索するため、同細胞を様々な基底膜構成タンパク質をコートしたシャーレ上で培養し、③窓マーカーPLVAPの細胞内局在を蛍光免疫染色で、④マーカー遺伝子の発現をqPCRで解析した。その結果、細胞外マトリックスの一つであるファイブロネクチンが窓構造や性質の維持に不可欠なことを発見し、論文としてまとめて、現在投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、候補分子の発現細胞を同定し、組織分布を明らかにすることが一つの目標であり、上述のように達成に至っている。また、候補分子の機能解析には着手できていないものの、機能解析を行う上で必要不可欠である下垂体有窓型内皮細胞の新規培養系の確立に成功したことから、おおむね順調だと判断している。
本年度確立した有窓型内皮細胞培養系を用いて、コラーゲン15A1をはじめとした候補因子の機能解析を行う。具体的には、購入もしくは自身で準備した候補因子をシャーレにコートし、その上でラット下垂体単離内皮細胞を培養する。そして、①窓マーカーPLVAPのmRNA発現変動をqPCRで解析するとともに、②PLVAPの細胞内局在を蛍光免疫染色で可視化し、その動態変化を共焦点レーザー顕微鏡で調べる。また、③走査型電子顕微鏡で細胞膜構造を観察し、窓の有無や大きさ、数量を測定する。さらに、④下垂体内皮細胞を対象に候補因子のsiRNAによるノックダウン処理を実施し、候補因子の発現低下と有窓状態の相関を明らかにする。
進歩状況に記載のように実験計画はおおむね順調であったが、2020年に入り、新型コロナウイルスの影響で若干の計画変更を余儀なくされたため、繰越金が生じている。繰越金の使用用途としては、細胞培養用試薬(培地、培養シャーレなど)やPCR酵素類の購入に充てる予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
FASEB J.
巻: 33 ページ: 12750-12759
10.1096/fj.201900283R.