研究課題
物質交換が盛んな内分泌器官や小腸などの組織には、血管壁に窓が開口する有窓型毛細血管が分布している。ホルモンや栄養素などの移動路として機能する窓は直径約70 nm程度のトンネル構造であり、100個以上が集まって篩板を形成している。しかし、窓自体の形成機序についてはいまだ不明な点が多く残っているため、申請者が新たに確立したラット下垂体有窓型内皮細胞培養系を中心に、本年度も引き続きその機序に関する研究を進めてきた。申請者が本課題初年度に行った形態学的解析の結果から、Col15a1が有窓型群で特徴的に高発現するとともに、有窓型毛細血管周囲に限局して分布していることがわかっている。そこで本年度は、はじめに培養下垂体有窓型内皮細胞へのsiRNAトランスフェクション法を確立をした上で、Col15a1ノックダウン処理を行うことで、窓マーカーPlvapをはじめとした各種遺伝子発現への影響について調べた。qPCRによる遺伝子発現解析の結果、Col15a1のノックダウンによりPlvap mRNA発現が減少することを見出したことから、有窓型内皮細胞が分泌したCollagen 15A1が同細胞にオートクライン、パラクライン的に作用することで、Plvap発現を遺伝子レベルで調節している可能性が示唆された。
3: やや遅れている
siRNAトランスフェクション法の検討および最適化に時間がかかったため、本年度行う予定の実験および検討の開始に遅れが生じてしまった。また、リコンビナントタンパク質の準備も遅れているため、前年度の計画を一部変更し、siRNA実験を中心に研究を遂行したことで、前述の研究成果を得ることができた。
これまでの解析からCollagen 15A1が基底膜局在性の細胞外因子として、有窓性の調節に関与する可能性が高い。このため最終年度は、Collagen 15A1の役割の解析を進めるとともに、有窓型内皮細胞による受容メカニズムの解明にも取り組む。具体的な研究方策としては、Col15a1をノックダウンした下垂体内皮細胞を対象に、PLVAPに対する蛍光免疫染色を行い、局在分布などへの影響を明らかにする。また、リコンビナントCollagen 15A1をシャーレにコートもしくは培養液に添加し、ラット下垂体有窓型内皮細胞を数日間培養した後、Plvap mRNAの発現変動をqPCRで解析するとともに、PLVAPの細胞内局在を蛍光免疫染色で確認する。また、走査型電子顕微鏡で細胞膜構造を観察することで、窓や隔膜の状況を明らかにする。Collagen 15A1の受容メカニズムについては、Collagen 15A1の受容体はいまだ特定されていないため、先にCollagen 15a1刺激で活性化する細胞内のシグナル分子を見つけ出す。具体的な方策として、コントロール群とsiCol15a1処理群の抽出タンパク質を用いたリン酸化抗体アレイを実施する。リン酸化が上昇するシグナル分子を切り口に、受容体分子の特定と下流シグナル系の全貌解明に取り組む。
新型コロナウイルスの影響の長期化により試薬類の供給状況が安定しないため、研究計画を適時変更して対応している。このため、今年度も若干の繰越金が生じているが、細胞培養用試薬(培地、培養シャーレなど)やPCR酵素類といった消耗品の購入に再配分して使用することを予定している。
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