研究実績の概要 |
理研BRCより提供されたラット由来の副甲状腺培養細胞(PT-r)を用いて、RNA-seqとATAC-seqに適するか検証を行った。PT-rのGcm2の発現は低いことから、Control細胞にはマウスGcm2を導入したPT-rを使用し、Gcm2KO細胞についてはGcm2KOベクターを導入することで、ATAC-seqとRNA-seqを行った。驚くことにcontrol細胞とKO細胞間で発現に差がある遺伝子数が8000以上もあり、その変化のほとんどがGcm2KOによる影響であった。これらのことから、Gcm2は副甲状腺細胞の維持に重要であり、その欠損はさまざまな細胞活動に広く影響を与える可能性が明らかとなった。さらに本研究のATAC-seq, RNA-seqの結果と既報のchip-seqの結果(Jung et al.,2024)から、Gcm2のターゲットとなりうる転写因子を抽出した結果、多くの転写関連因子がKOによって減少することが明らかとなった。この結果はGcm2がパイオニアファクターとして働いていることを強く示唆させた。また、KOによって発現が増加する転写因子も多くあり、この中にはGata3やRing1といったパイオニアファクターやpolycomb複合体の構成因子があり、クロマチンの構造を大きく変化させて多くの遺伝子の転写抑制を行っている可能性が示唆された。 本研究を通じて、種間のGcm2の比較の結果から、マウスGcm2はゼブラフィッシュと異なる転写活性を示すことを明らかにし、また、種間の転写活性化能の違いはGcm2のTADに依存していることを明らかにした。TAD領域に見られる構造の違いが転写活性化能の違いを生み、さらにその違いが異なる下流遺伝子の発現を促すことで、発生する形態の違いをもたらす可能性が考えられた。またATAC-seqの結果から、Gcm2がパイオニアファクターである可能性が強く示唆され、Gcm2の新たな機能を明らかにすることができた。
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