研究課題
申請者らのこれまでの研究から、発生期の大脳皮質では、血管の形態・分子的な特徴が領域特異的に区別されており、これによって構築される『領域独自の血管環境』が神経の発生・分化に重要な役割を果たすことを明らかにしている。しかしながら、成体、あるいは加齢・病態において脈管系の領域特異的な血管環境がどのように構築され、いかに変化するのかについては未確認であり、また、その生理的な役割について明らかにするには至っていない。そこで本研究では、様々な疾患で観察される脳内部位選択的な脆弱性は、脳の領域選択的な脈管系の構造的特徴、あるいは加齢による領域選択的な劣化が関与する可能性に着目した。本年度は、血管リポーターマウス(VEGFR(血管内皮成長因子受容体)1-DsRed BACtg、VEGFR2-GFP BACtg)を用いて、加齢に伴う脳組織内の血管の組織学的な変化(密度、口径不同、曲率など)を評価し、領域選択的な脆弱性との関連性について評価を加えた。その結果、大脳皮質の上層を構成する神経細胞の周囲の毛細血管は比較的早期から組織学的な変化を示すことが見出された。さらには、大脳皮質における血管透過性の相違を評価したところ、脳室下帯など、未分化な幹細胞が位置する領域では、毛細血管の透過性が亢進することが見出された。今後、本研究をさらに追求することで、大脳皮質の組織老化や病態における毛細血管の生理的意義が明確化されることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画では、脳(特に、大脳皮質)を構成する神経細胞の中で障害を受けやすい領域に着目し、この周辺に位置する毛細血管が老化の影響を受けやすいとの仮説の元、研究を進めている。その結果、当初想定していたとおり、神経細胞が優先的に脆弱である領域は、比較的早期から、毛細血管の老化が優先的に進行している可能性が示された。今後、その分子機構や生理的意義を追求していきたい。
今後、(1)すでに得られた萌芽的な実験結果の再現性を追求すると共に、(2)様々な角度から解析を加え、より科学的に血管老化を評価できる実験系の確立を目指したい。さらには、組織内の毛細血管の中で、定められた領域が(3)何故、加齢変化を受けやすいのか、また(4)どのようにして選択的脆弱性が進行するのかを明確化すると共に、(5)これがどのような病態に関与する可能性があるのかについて追求することで、脳の領域選択的な脆弱性と領域特有の血管環境の関連性について研究を展開していく。
本年度、これまで使用してきた顕微鏡画像解析用のパソコンとプリンターが経年劣化で故障したことから、免疫組織学実験によって得た顕微鏡画像を解析するための専用のパソコンおよびプリンターが必要となったため、当初の予定よりも予算が必要となった。また、本年度、国際誌に掲載されたことでオープンアクセスや別刷り費用が必要となったが、次年度も同様に国際誌への発表を予定しているため、当初の予定よりも出版にかかわる必要がさらに必要となることが予測される。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
YAKUGAKU-ZASSHI
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