申請者らのこれまでの研究から、発生期の大脳皮質では、血管の形態・分子的な特徴が領域特異的に区別され、これによって構築される『領域独自の血管環境』が神経の発生・分化に重要な役割を果たすことを明らかにしている。しかしながら、成体、あるいは加齢・病態において脈管系の領域特異的な血管環境が構築されているのか否か、また、その生理的な役割について、明らかにするには至っていない。本研究では、種々の神経疾患で観察される脳内部位選択的な脆弱性は、脳の領域選択的な脈管系の構造的特徴、あるいは加齢による領域選択的な劣化が関与する可能性に着目した。
本研究計画では、血管リポーターマウス(VEGFR(血管内皮成長因子受容体)1-DsRed::VEGFR2-EGFP BACtg)を用いて、加齢に伴う血管密度の変化を詳細に解析した。その結果、大脳皮質における血管老化には特徴があり、VEGFR1陽性の毛細血管の密度は大きな変化を示さない一方で、VEGFR2陽性の毛細血管の密度が優先的に減少することが見出された。このことから、脳における特徴的な血管老化は組織老化と密接に関連していると考えた。そこで、アルツハイマーモデル動物を用いて、脳のVEGFR2陽性毛細血管が疎な領域に着目したところ、若齢からアミロイドベータの蓄積が認められることが見出された。以上の結果から『脳の領域選択的な脆弱性』には領域特有の血管老化が影響を及ぼし、これが様々な神経疾患の発症・進展に関与する可能性が示唆された。
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