哺乳類の減数分裂チェックポイントに必須なHORMAD2は、複数のリン酸化修飾を受けることが知られているが、その機能的意義は未解明である。本研究では、マウスHORMAD2のC末端付近に見られる3ヶ所のリン酸化部位(Ser284/287/288)について、ゲノム編集により非リン酸化型(Ala284/287/288)とリン酸化模倣型(Asp284/287/288)に改変した点変異マウスを作製して表現型解析を進めてきた。最終年度の解析では、リン酸化による分子挙動の変化を明らかにするため、主に野性型と点変異を導入したマウスHORMAD2の細胞内局在について、蛍光免疫染色やウエスタンブロットによる解析を行ったが、これまでのところ、リン酸化型と非リン酸化型の挙動や局在の違いを見つけることはできていない。また当初予定していたリン酸化状態特異的なモノクローナル抗体の作製や、結合タンパク質の解析は残念ながら実行できなかった。研究期間全体を通じた成果としては、卵巣重量の解析により、非リン酸化型HORMAD2マウスの卵巣では、SPO11欠損などにより対合不全を多数生じた際に、野性型HORMAD2の卵巣よりも卵母細胞が減少する可能性が示された。但し、実際の卵母細胞数や細胞死の定量的解析は未完了である。一方で、リン酸化模倣型HORMAD2マウスの卵巣重量は野性型と同等であり、HORMAD2のリン酸化によって細胞死が完全に抑制されるわけではないことも示された。さらに偶然作製されたC末端欠損変異体では、対合不全による細胞死が高度に亢進することも明らかになった。これらの結果から、マウスHORMAD2のC末端のリン酸化は、対合不全チェックポイントの活性を抑制するはたらきがあり、軽度の対合不全を見逃すことで、数的に貴重な卵母細胞の細胞数を確保するメカニズムが存在する、という興味深い仮説を得ることが出来た。
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