研究課題/領域番号 |
19K07263
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
渡辺 啓介 新潟大学, 医歯学系, 講師 (20446264)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 恐怖行動 / 中隔核 / 細胞移動 / 脳弓 / Dpy19L1 |
研究実績の概要 |
恐怖や不安の中には経験に基づかない先天的な行動があることから、それらに関わる神経回路は、遺伝子レベルで設計、構築されていることが予想される。しかしながら、実際の分子メカニズムについては不明な点が多い。私達は、これまで新規糖転移酵素Dpy19L1ノックアウト(KO)マウスにおいて、生来の恐怖行動が著しく減弱していること、さらに恐怖・不安行動に関わる後方中隔核(PS)の形成異常を呈すること見出した。そこで本申請では、Dpy19L1の解析を通して、生来の恐怖行動を制御する神経回路形成の分子メカニズムの一端を明らかにすることを目的としている。本年度は、発生期のPSニューロンの移動を制御するガイド機構について解析を行った。PSニューロンは、間脳の前方端で誕生し、前方に長い距離を移動、間脳-終脳境界を越えた後、終脳の中隔核に加わる。私たちは、PSニューロン移動と海馬の出力線維束である脳弓との関連性に注目し、組織学的解析を行った。その結果、PSニューロンは、すでに形成されつつある脳弓に沿って、前方移動を行うことがわかった。さらに子宮内electroporation法を用いて、脳弓を欠損させたところ、大部分のPSニューロンが移動できずに誕生地近くに蓄積することがわかった。これらの結果から、PSニューロンの移動には、先行して起こる脳弓形成が必須であることが明らかになった。また、胎生期Dpy19L1 KOマウスにおいて、脳弓線維の異常走行が生じていることがわかった。これらの結果から、Dpy19L1は海馬ニューロンの軸索走行を制御することで、間接的にPSの形成に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖転移酵素Dpy19L1は、発生期の海馬原基を含む大脳皮質に強く発現する。一方で、私達はDpy19L1 KOマウスにおいて、大脳皮質から離れた後方中隔核(PS)の構築異常を見出していた。これまで両者の因果関係が全くわからなかった。このため、今回海馬の神経線維の伸長とPSニューロンの移動の関連性を明らかにしたことは、本研究における大きな進展である考えられる。なお脳弓とPSニューロンについての研究成果は、追加実験を終了し、再投稿を行ったところである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果から、大脳皮質に発現するDpy19L1が、間接的に後方中隔核(PS)の発生に関わる可能性が考えられた。そこで、大脳皮質または海馬原基特異的にCreを発現する遺伝子改変マウスとDpy19L1 floxマウスを交配させることで、大脳皮質、海馬原基特異的Dpy19L1 KOマウスを作製する。このマウスを用いて、組織学的および行動解析を行い、PSの形成異常と恐怖行動異常が観察されるかを検討していく。また、Dpy19L1は新規の糖転移酵素とあることが報告された。現在Dpy19L1のターゲットとして複数の遺伝子に注目しており、それらの発現パターンを組織学的に調べる予定である。
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