研究課題/領域番号 |
19K07268
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
林 利憲 広島大学, 両生類研究センター, 教授 (60580925)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イベリアトゲイモリ / 再生 / 精巣 / 精子形成 / 始原生殖細胞 |
研究実績の概要 |
イモリは精巣を完全に除去されても、再生できる。精巣の再生は、精巣に隣接する結合組織内の幹細胞から、生殖細胞を含む組織が再形成される点で際立っている。この再生を可能とする原理を理解することは、哺乳類が再生できない原因の解明にもつながる。しかしこれまで一般に用いられてきたイモリでは、実験上の制約から研究が進まなかった。本研究では、自ら確立したイベリアトゲイモリの、モデル実験系としての長所を駆使して、1)再生を開始させるシグナルの解明、2)精巣再生に寄与する幹細胞の同定、そして3)再生過程を制御する遺伝子ネットワークを提示して、イモリ精巣再生の機構を明らかにする、ことを目指している。 研究の1年目である本年は、イモリ精巣発達や雄性生殖細胞の発生過程に関する基本情報を収集することに重点を置いた研究を実施した。日長条件や性ホルモンが精巣の発達や再生に与える影響を明らかにした。また、始原生殖細胞の形成過程において、dazl遺伝子やnanos遺伝子がどの様な機能を持つかについても解析を進めたことで、いくつかの重要な知見を得た。 イベリアトゲイモリの行う上で極めて重要な実験技術であるマイクロインジェクション法の確立に関する成果と、脊椎動物間の再生能力の比較に関する総説を査読つき国際雑誌に発表した。また、イモリのゲノム編集技術に関する著書を部分執筆した。 招待公演4件(内1件は国際シンポジウム)を含む10件の学会発表を行った他、アウトリーチ活動として、第90回日本動物学会大阪大会の動物学広場において生体の展示と解説を行い、多数の参加者を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、研究代表者が鳥取大学から広島大学両生類研究センターへ異動したことに伴い、イベリアトゲイモリコローニの移動とセットアップを行った。 本研究を推進するためには、イモリ精巣発達や雄性生殖細胞の発生過程に関する基本情報を収集することが重要である。これに対しては、日長条件や性ホルモンが精巣の発達や再生に与える影響を解析した。その結果、これまでに知られているイモリ類の精子形成様式に反して、イベリアトゲイモリの精子形成や、精巣の再生は日周期の影響を受けることなく進行することを初めて明らかにした。これら成果については、現在国際誌への投稿に向けた論文を執筆中である。 また、オス成体の精巣に隣接した結合組織内に存在する始原生殖細胞様の細胞の性質と比較するために、発生過程における始原生殖細胞の形成過程を詳細に調べ、dazl遺伝子やnanos遺伝子がどの様に機能しているのかを明らかにできた。この過程では、イベリアトゲイモリにおけるRNAi技術やMorpholino技術を確立することに成功した。 この様な状況から、当研究計画は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続き始原生殖細胞の分化過程を明らかにする研究を進める。これにより、雄性生殖細胞をラベリングするための適切なマーカー遺伝子を見つけ出す。マーカ遺伝子を見つけ次第、その遺伝子のプロモーター領域をクローニングして、レポーターイモリおよび組織特異的Cre発現イモリの作製に向けた準備を行う。これは、2)精巣再生に寄与する幹細胞の同定に寄与する。 同時に、APT内に存在する始原生殖細胞様の性質と、再生精巣に対する寄与を明らかにするための実験に着手する。このために、始原生殖細胞様細胞の遺伝子発現プロファイリングを行う。また、この細胞の単離と培養を試みる。単離に有効なタンパク質分解酵素のテストと培養条件の検討を行う。これと同時に、単離した始原生殖細胞様細胞をオス個体あるいはメス個体へ移植する実験を行う。この結果、精子や卵に分化するか否かを詳細に解析することで、移植した細胞の生殖幹細胞としての性質の有無を明らかにするとともに、生殖細胞への文化を制御するシグナルの解析に向けた準備を進めていく。 これらの計画を実施することで引き続き研究を着実に推進していく。
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