研究課題/領域番号 |
19K07274
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
大久保 直 北里大学, 医学部, 准教授 (10450719)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 胸腺形成 / 胸腺の移動 / RIpply3 / アミノ酸モチーフ / ゲノム編集 / 心臓流出路 |
研究実績の概要 |
マウスのRipply3は咽頭弓に発現し、咽頭弓分節と胸腺形成に必須な遺伝子である。本研究では、Ripply3において進化的に保存されたアミノ酸モチーフ(WRPWとFPVQ)に注目し、それらに変異を導入したノックイン(KI)マウスを作成し、Ripply3 KOマウスの胸腺の表現型と比較することで、各モチーフの機能を顕在化しようと考えた。2021年度は、WRPWをアラニン(AAAA)に置換したWA-KIマウスとFPVQをアラニン(AAAA)に置換したFA-KIマウスの胸腺の表現型に加え、心臓および流出路の表現型を比較した。その結果、正常な胸腺は第3咽頭嚢に形成され、その後咽頭から離れて心臓上部まで移動するが、WA-KIマウスでは、74%がbilateral型(両側の胸腺は細長く心臓上部まで下降する)、21%がunilateral型(片側の胸腺は頸部に残存し、もう片方は細長く心臓上部まで下降する)、5%がcervical型(両側とも頸部に残存する)に分類され、Ripply3 KOマウスに比べ多様な形成異常が見られた。一方、FA-KIマウスでは、95%がCervical型で、Ripply3 KOマウスの表現型と似ていた。次に、心臓および流出路について解析したところ、WA-KIマウスでは、51%で心室中隔欠損(VSD)が観察され、流出路は59%で大動脈弓離断(IAA)、残りは右鎖骨下動脈起始異常(ARSA)や右側大動脈(RAA)など多様な表現型が見られた。それに対し、FA-KIマウスでは、全てのマウスでVSDが観察され、流出路も全てIAA型であった。このように変異を導入されたアミノ酸モチーフにより、胸腺と心臓の表現型の浸透度に大きな差が見られた。以上の結果から、両モチーフはRipply3の機能に必要であるが、生体内で転写調節などにおいてそれぞれ機能分担があると示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ripply3の進化的に保存された2つのアミノ酸モチーフに変異を導入したKIマウスが完成し、それらの表現型解析が順調に進んだ。各KIマウスの胸腺形成や心臓流出路の形態において顕著な差を見出し、KOマウスとの違いも顕在化できた。また、これら新生仔期の表現型の違いを生み出す要因として、咽頭弓の表現型についても差を見出しており、順調に進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
Ripply3 WA-KIおよびFA-KIマウスにおける、胎生9.5-10.5日の咽頭弓分節の表現型について、組織および遺伝子発現レベルで表現型解析を進めており、各KIマウス間で差が見られている。今後、解析数を増やしていく。またRipply3は、咽頭弓の外胚葉と内胚葉で特異的に発現するが、胚葉特異的なRipply3の機能は分かっていない。まず内胚葉における Ripply3の機能を明らかにするため、咽頭弓内胚葉で遺伝子組換えを誘導するFoxa2-EGFP-creERマウスをすでに導入しており、Ripply3 floxマウスとの交配を進め、表現型を解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、新型コロナ感染症の拡大で学会への参加を控えたため、旅費への使用がなかった。また卒業研究で配属される学生がいなかったため、試薬等の使用量が減った。2022年度は、内胚葉特異的な Ripply3 欠損マウスの解析にかかる飼育繁殖費、および論文投稿に使用する。
|