研究課題/領域番号 |
19K07275
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
菅原 大介 杏林大学, 医学部, 助教 (00390766)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | レクチン / ニッチ細胞 / 糖鎖 / 大腸 / 腸管上皮 / フコシル化糖鎖 |
研究実績の概要 |
傷害された上皮が適切に再生するには、性質の異なる複数種の幹細胞が、個別かつ綿密な増殖・分化の制御を受けることが重要である。しかし、その機構には未解明な点が多い。このような上皮再生過程において、異なる糖鎖を発現する2種類のニッチ細胞が幹細胞制御にどのように関与するか、明らかにすることが本課題の目的である。 本課題では、薬剤誘導性の腸炎により傷害された大腸上皮が、数週間をかけて再生する過程をモデルとして利用する。当該年度は、再生過程4、7、13日目におけるニッチ細胞と幹細胞の挙動、また、ニッチ細胞に発現する糖鎖や、幹細胞制御に関連する分子の変化を免疫組織染色により検討した。結果、炎症による組織傷害の程度や再生の進行が大腸の近位-遠位軸方向に異なることに加え、フコシル化糖鎖の発現分布の状況や、上皮を構成する細胞種の変化も部位毎に異なることを明らかにした。また、検討した再生過程の期間において、ニッチ細胞のタンパク質性マーカーの発現は消失することもわかった。このことは生理状態とは異なる幹細胞制御機構が機能していることを示唆する。従って、再生13日目では上皮の回復は十分ではなく、さらに14日目以降の再生過程での検討が必要と考えられた。 生理状態において大腸遠位部のニッチ細胞に限局して発現したフコシル化糖鎖は、検討した再生過程の期間では、新たに別の分泌系上皮細胞において発現するようになった。その発現は再生の初期段階から大きく上昇した。類縁の別のフコシル化糖鎖では、このような発現様式の大きな変化は観察されなかった。再生過程に特徴的な発現をするフコシル化糖鎖としても、その機能的意義に興味がもたれた。この糖鎖を発現する細胞はMucin-2を発現することから、主に杯細胞であると考えられた。生理状態と同様に微生物感染の抑制へ関与することに加え、傷害された上皮の回復へ関与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は計画に従い、まず、薬剤投与による腸炎モデル動物を準備し、上皮再生過程13日目までの組織試料を調製した。次に、前年度、決定したプロトコールに従い、調製した組織試料と種々の抗体・レクチンを用いた免疫組織染色を進めた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、所属研究機関の研究活動指針を踏まえる必要が生じ、計画全般に遅延が生じた。複数の研究施設の使用が制限され、再生過程14日目以降のモデル動物組織の調製および解析が未実施となった。加えて、製造業者の都合により、実験の実施に必要な試薬・消耗品の欠品も起こり、次年度に順延した実験も生じた。
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今後の研究の推進方策 |
全般的に新型コロナウイルス感染症による影響を受けることが予想されるが、当初の研究目的に沿って、以下3つを主軸として研究を進める計画である。 1, ここまでの検討により、再生過程13日目では上皮は未だ回復の途中であると考えられた。次年度は、再生過程14日目以降に関しても同様に解析を行い、再生過程の初期段階から正常に回復するまでの変化を経時的に明らかにする。 2, 腸管上皮細胞における糖鎖や幹細胞制御分子の発現は、近位-遠位軸方向に異なった。その分子背景および機能的意義を調べるため、当初の計画にはないが、遺伝子発現変化にも着目し検討を進める。 3, 再生過程に発現が上昇する糖鎖の腸管恒常性維持における機能的意義を検討する。この糖鎖が付加するタンパク質を特定し、大腸各部位および再生過程における局在の変化をin situ Proximity Ligation法を利用し検討する。 また、再生過程においてニッチ細胞マーカーの発現が消失することが新たにわかった。そのため免疫組織染色におけるニッチ細胞の特定手段の検討も必要となった。幹細胞制御に必須なNotchシグナルに関連するDll-1, 4の発現を利用できないか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、誌上開催もしくは所属大学の研究活動指針を踏まえ不参加とした。そのため、学会参加のため計上した出張旅費の支出が大きく減じた。また、所属研究機関の研究活動指針を踏まえ、予定していた動物実験の回数を減じた。研究試薬の納期が未定・遅延となった実験は、次年度に順延したことから消耗品費も繰り越した。効率的に研究を進めるための方策に繰越分を支出する。
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