研究課題
本年度はコレステロール生合成とゴルジ体酸性環境の関連性について、解析を行った。GPHR欠損脳組織および、欠損細胞ではSREBP2標的遺伝子であるHMGCRやLDLRの遺伝子発現がコントロールと比較して有意に低かった。続いて、GPHR欠損におけるSREBP2の核移行を生化学的に解析した。SREBP2は細胞内コレステロール濃度に応じて、小胞体膜からゴルジ体に移行し、そこでC末端側の切断を受け、N末端側のみが活性型として核内へと移行する。よって、SREBP2の核移行を細胞分画法によって評価した。その結果、野生型と比較して、GPHR欠損細胞では核移行型SREBP2の量が明らかに減少していた。しかし、HPCDなどのコレステロール除去剤を用いて模倣したコレステロール枯渇状況下では、刺激に応じたSREBP2の核移行とその標的遺伝子群の発現上昇率は野生型とGPHR欠損では有意差は無かった。これらの結果は、GPHR欠損条件下では定常状態のSREBP2の活性化機構が抑制されていることを示している。続いて、GPHR欠損条件下でコレステロール生合成関連遺伝子群の発現を回復させるために、活性化型SREBP2(N末端のみ)のアデノウィルス(Ad-SREBP2N)およびアデノ随伴ウィルスベクター(AAV-SREBP2N)を作製した。SREBP2Nを処理したGPHR欠損細胞を定量PCRおよび細胞分画法を用いて解析した結果、SREBP2の核移行およびコレステロール生合成関連遺伝子群の発現の回復を確認した。続いて、GPHR欠損細胞にSREBP2Nを発現させ、細胞内コレステロール濃度を測定した結果、全長のSREBP2でなく、核移行型のSREBP2Nを発現させた細胞のみコレステロール量の回復が認められた。
2: おおむね順調に進展している
ゴルジ体酸性環境の破綻に起因する細胞内変動を明らかにするために設定している研究項目のそれぞれが概ね研究計画書の予定に沿って進行している。
これまでに小脳神経系特異的GPHR欠損マウスの解析から、神経系におけるゴルジ体酸性環境不全はゴルジ体の異常形態や軸索肥大を伴う神経細胞死を引き起こすことを明らかにした。今後は今年度の研究から明らかとなったゴルジ体酸性環境不全に起因したSREBP2の核移行障害と、それに続く細胞内コレステロール生合成系の活性低下を脳組織で緩和させる方法を模索する。具体的には作出済みの神経系特異的GPHR欠損マウスにアデノ随伴ウィルスベクターを用いてSREBP2Nを目的の細胞に発現させ、マウスの表現型の回復具合を検証する。加えて、神経変性とコレステロール合成系の因果関係も検証する予定である。
手配した抗B4GalT1抗体が年度内に届かなかった。発注した抗体はすでに到着し、次年度使用額分を計上している。
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Nature Communications
巻: 12 ページ: -
10.1038/s41467-020-20185-1
https://juntendo-cellbio.jp/