研究課題
本年度も昨年度から引き続きゴルジ体酸性環境破綻[GPHR(Golgi pH regulator)欠損]に起因したコレステロール生合成系に関与する酵素群の転写因子SREBP2の活性化の関連性について解析を進めた。作出した中枢神経系特異的GPHR欠損マウス(GPHR;NesKO)は振戦症状を呈し、その脳構造は大脳皮質や海馬CA1及びCA3の薄層化や神経細胞死を伴う神経変性疾患様症状の特徴を示す。そこで、GPHR;NesKO脳全体のコレステロール生合成関連遺伝子群の定量PCRからSREBP2の活性を測定した。その結果、GPHR;NesKOにおけるSREBP2の転写活性はコントロール群と比較して有意に低かった。加えて、SREBP2の標的遺伝子であるLDL受容体がGPHR;NesKOでは著しく減少し、その分布もコントロール群と異なる挙動を示していた。さらに、脳全体に含まれるコレステロール総量もコントロール群と比較して有意に少なかった。そして、マウス神経芽細胞腫(N2A細胞)のGPHR欠損細胞株を樹立し、レチノイン酸添加時の神経突起の伸長を測定した。その結果、GPHR欠損N2A細胞は神経突起の伸長が著しく抑制されることを見出した。そして、この表現型は活性化型SREBP2を強制的に発現させることで回復できることを見出した。脳の発達にはコレステロール合成が欠かせないことが知られており、これまでの結果を合わせ考えるとGPHR欠損によって引き起こされる大脳皮質や海馬の薄層化はコレステロール合成の低下に起因していると示唆された。つまり、神経組織におけるゴルジ体の酸性環境はSREBP2の活性化を介して、脳神経系の発達に寄与していることが示唆された。
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J Biol Chem
巻: 297 ページ: 101405
10.1016/j.jbc.2021.101405
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