研究課題/領域番号 |
19K07277
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
和田 幸恵 (平原幸恵) 関西医科大学, 医学部, 講師 (70457969)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シュワン細胞 / ミエリン形成 / スルファチド / 質量顕微鏡 / DRG / EMARS法 |
研究実績の概要 |
末梢神経髄鞘形成細胞であるシュワン細胞において、硫酸化糖脂質(スルファチド)は分化マーカーとして使われているにもかかわらず、その機能は不明である。一方、中枢神経髄鞘形成細胞オリゴデンドロサイトにおいてもスルファチドは分化マーカーであり、報告者らは、スルファチドの多様な構造バリアントがオリゴデンドロサイトの発生過程において時間的空間的特徴のある発現を示すことを最近報告した。また、報告者らはかつて、モデル動物を作製し、スルファチドの欠損がオリゴデンドロサイトの成熟異常・ミエリン形成異常を起こして重篤な神経障害を導くなど、スルファチドが髄鞘形成に重要な役割を果たすことも明らかにしている。本研究は、これまでオリゴデンドロサイトに関して得た知見と、これまでに培った機能解析技術を駆使して、末梢神経すなわちシュワン細胞におけるスルファチドの機能を解明することを目的とする。本年度は、シュワン細胞の発生時期が異なるニワトリ胚とマウス胚のスルファチド分子種の時空間的解析の比較に焦点を当てた。さらに無髄シュワン、有髄シュワンの分子種特異性の有無を比較し、スルファチド欠損マウスにおける微小形態学的変化を電子顕微鏡解析により行なった。スルファチド分子種の種類は、ニワトリ胚DRG、マウス胚DRGともに共通して使われていた。また、これらの欠損マウスは、パラノード異常、無髄シュワンの全周性異常を示した。発現時期は、ニワトリ胚DRGと比較すると、マウス胚では、大幅に遅れるが、同じ分子種がDRGに検出された。これらの結果は、スルファチド分子種の発現が生涯にわたって維持されていることを示唆しており、シュワン細胞前駆体、髄鞘特異的な役割を持つ可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
質量顕微鏡解析は、様々な脂質分子種の空間的位置情報を捉えることができる。質量顕微鏡、免疫染色法を駆使して、スルファチド分子種の末梢神経における発現時期を解析した。マウス成体DRGにおいて、14種類のスルファチド分子種が検出され、C24, C24:1sulfatideなど神経線維の豊富な領域特異的に局在するもの、C16, C18sulfatideの様に、DRG神経体が豊富な領域に散在しているものがあり分子種特異的な発現がみられた。一方、ニワトリ胚DRG発生初期の免疫組織化学解析において、Sox2/Sox10 陽性細胞であるシュワン前駆細胞にスルファチドが発現することが観察された。質量顕微鏡解析により、DRG発生初期に観察されるスルファチド分子種は、 C16, C18, C24, C24:1スルファチドであった。分子種の発現量は、C16> C18> C24:1>C24 で、発生に伴い発現量が増加した。マウス胚のDRGでは、スルファチドの発現はE16から発現していた。さらにスルファチド欠損マウスでは、有髄神経のパラノード部分が正常に構築されないこと、無髄神経で一つの無髄シュワンが取り囲む軸索の太さのばらつきが大きくなり、シュワン細胞自体が軸索を全周的にうまく囲めなくなることが明らかとなり、有髄シュワン、無髄シュワンともにスルファチドが重要な役割を担っている可能性が示唆された。DRGのシュワン細胞は、様々なスルファチド分子種を発現し、胎性期のシュワン細胞前駆細胞で機能するスルファチド分子種と成熟過程、成熟後の髄鞘形成維持に関わるスルファチド、また有髄あるいは無髄シュワンに発現するものでは、分子種によって生理的役割が異なる可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的は、発生過程で発現するスルファチド分子種と共局在する分子の同定であったが、本年の解析により、想定以上スルファチド分子種がDRGの髄鞘形成に関与していることが明らかとなった。一方で、当初より行なってきたスルファチド分子種の共局在分子種の同定のためのEMARS法の確立は、既に確定しているが、候補分子の同定には至っていない。引き続き、スクリーニングを進めるが、マウス成体DRGにおける14種類のスルファチド分子種の時空間的解析を詳細に進めることが先決であると考えている。まず、有髄シュワン、無髄シュワンに特異的発現を示す分子種が存在するのかに焦点をおき、それぞれのマーカーを用いた蛍光活性化セルソーティングを用いて細胞を分取し、スルファチドバリアンとの同定を行う。さらに、スルファチド欠損マウスのDRG 発生過程の解析をすることにより、その時期、細胞特異的スルファチドの機能を見ることが可能である。スルファチド欠損マウス解析に関して準備は整っているので、すぐに着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大阪府の緊急事態宣言により、当大学の動物実験施設においても「想定される事態の対応策」としてケージ数3割減、新規動物停止、入室の人数制限等の協力要請が出された。本研究に必要な改変マウスは、一時的に受精卵凍結を行なったが、その後の凍結融解肺移植が成功せず、実験材料であるマウスの使用が中断された。補助事業の延長をお願いし、次年度のマウス解析に使用する予定である。
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