研究課題/領域番号 |
19K07281
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
三木 隆司 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (50302568)
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研究分担者 |
李 恩瑛 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60583424)
波多野 亮 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60521713)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリン / 再生 |
研究実績の概要 |
健常人では膵β細胞の量と質は一定の範囲に維持されている。我々は、膵β細胞特異的に細胞死を誘導できる遺伝子改変マウスでは、細胞死誘導後に活発な膵β細胞の分裂が誘導され膵島量が比較的短期間で回復することを発見し、このマウスをモデルに膵島再生の誘導機構の解明を続けている。これまでに、膵島再生マウスでは、①少数の膵β細胞が繰り返し細胞分裂を起こすこと。②再生中の膵島ではNgn3の発現が誘導されること。③細胞分裂中の膵β細胞では成熟分化マーカー(インスリン等)の発現が低下していることを見出し、一部の膵β細胞が脱分化/反復性の増殖/再分化を示すことを発見した。 令和2年度には、この再生誘導の機序を解明する目的で、80%膵亜全摘術により同等量の膵β細胞減少を誘導し、膵島再生マウスの再生と比較検討した。その結果、膵亜全摘でも膵島再生マウスとほぼ同等の細胞分裂が誘導されるものの、Ngn3に代表される脱分化マーカーは誘導されないことが明らかになった。さらに、膵β細胞量の減少による残存膵β細胞の仕事需要量(demand)の増加が細胞分裂の誘導を惹起している可能性を考え、膵島再生マウスと膵亜全摘マウスに対し、予め膵β細胞株から作製した擬膵島を移植し、その後に再生を誘導したところ、両マウスモデルで、再生誘導後の細胞分裂が著明に抑制され、仕事需要量の増加が膵β細胞量の細胞分裂を誘導することが直接的に示された。 さらに令和2年度には再生膵島をLCM法により採取し、遺伝子発現を定量的、経時的に解析した。膵島再生マウスではNgn3のみならず、Hes1とMash1の発現が誘導されていた。一方、膵亜全摘マウスではこれらの遺伝子発現は明らかに弱く、Hes1/ Ngn3/ Mash1が脱分化とその後の反復性増殖に寄与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は令和2年度に膵島再生マウスと膵亜全摘マウスという異なる2つの膵島再生モデルを形態学解析とLCM法による遺伝子発現解析を用いて比較検討した。その結果、膵島再生マウスの再生に見られた、細胞分裂の誘導と、細胞の脱分化が異なる機序で惹起されていることを明らかにできた。さらに、これまでは脱分化マーカーとして理解されてきたいくつかの分子が細胞分裂終了後に発現増加することなども新たに明らかにできた。この様に、遺伝子発現の定量的経時的な解析で再生現象を解明できたと考えている。 また、擬膵島移植による低血糖状態での膵β細胞の量と質の解析も進めており、擬膵島移植による膵β細胞の脱分化が野生型マウスでは誘導されるが、KATPチャネル欠損マウスではほとんど見られないことも見出し、その機序の解析も進めている。 このようなことから、令和2年度我々の研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点の我々の目標は、細胞の分化に極めて重要な役割を果たすHes1/ Ngn3/ Mash1シグナルが、膵島再生マウスのみに誘導される機序がどのようなものであるかを解明することである。我々は膵島再生マウスでは膵亜全摘マウスと異なり、膵島内でモザイク状に膵β細胞が脱落することが脱分化誘導に寄与するのではないかと考えている。この機序を解析するためには、再生中の膵島を単離し解析することが必須であるが、大部分(80%)の膵β細胞が死滅した再生膵島は通常のコラゲナーゼ法での単離は不可能であり、LCM法で解析しているが、回収できる試料が極僅かであり、qPCR法以外の解析は依然困難である。そこで、令和3年度では、再生誘導前の膵島再生マウスから膵島を単離し、in vitroの環境下で、細胞死と再生を誘導し、その機序を解明することを目指す。この方法により、これまでは不可能であった蛋白レベルでの再生研究も可能になると考えられる。さらに、LCM法で回収した細胞は既に死滅し、単細胞解析は不可能であるが、このin vitro再生実験では膵島細胞を生存したまま単細胞に分散売ることが可能なため、将来的に単細胞解析にも発展させられる可能性があると考え、実験系を樹立したい。 一方、研究実績の概要では記載するスペースがなかったが、擬膵島移植による低血糖状態での膵β細胞の量と質の解析も進めている。既に、野生型マウスに擬膵島移植を移植した際には内在性の膵β細胞に、顕著な脱分化が誘導されることが示されているが、KATPチャネル欠損マウスでは脱分化がほとんど誘導されないことを見出している。令和3年度には擬膵島移植による脱分化におけるKATPチャネルの役割をKATPチャネル欠損マウスを用いて解析する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度分の研究費はほぼ全額使用しました。一方、本科研費が基金化され、年度毎の予算の使用が弾力的にできる様になり、大変助かっています。残額がわずかに残りましたが、来年度の予算とともに使用させていただけばと思います。
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