研究実績の概要 |
高齢者や帰還後の宇宙飛行士では前庭器(耳石器・三半規管)の機能低下による平衡機能障害や起立性低血圧が問題となっており,これには前庭系可塑の関与が示唆されている。しかし,可塑のメカニズムやそれが引き起こす生理機能調節力低下(デコンディショニング)の全容が不明であるため,障害や症状に対する効果的な予防法やリハビリテーション法が確立されていない。そこで,前庭系可塑による生理機能調節力低下への対策を確立するために,最終年度は可塑を防ぐ末梢前庭器電気刺激装置の開発を行った。 麻酔下のマウスの外耳道から鼓膜および耳小骨を取り除いた。耳小骨のひとつであるアブミ骨を外すと耳石膜を確認することができ,その部位に先端をアンブレラ型にしたステンレス製の電極を置いた。電極および耳石膜を歯科用シリコンにて包埋し固定した。耳石側とは反対の電極先端を,外耳道の側壁に穴をあけた部位から頭蓋骨上まで通した。電極をピンソケットターミナルと接続し,歯科用セメントにて頭蓋骨上に固定した。 電流0.2 mAにて1秒間の電気刺激を行うと,同側方向に身体の傾斜がみられた。身体傾斜は電流値依存的に有意に増加した。また,矩形波にて電流値,頻度および持続時間を変化させると,0.1 mA, 0.5 Hz, 500 msecの組み合わせが平衡機能への適切な刺激であることがわかった。また,サイン波での電気刺激も試したが,傾斜角度は矩形波の場合と違いがみられなかった。 マウスを過重力環境下で飼育すると前庭機能低下が引き起こされることから,今後は,本研究にて開発した末梢前庭器電気刺激装置を用いて,前庭系可塑を防ぐことができるかどうかを検討する。
|