本研究の目的は、オレキシンが背側縫線核セロトニン作動性ニューロンに引き起こす作用の一つであるオレキシン誘発性発火後過分極増強(oeAHP)のうちアパミン非感受性成分(ai-oeAHP)の発現機序ならびにセロトニン作動性ニューロンの発火特性に及ぼす影響を明らかにすることである。 これらを明らかにするために背側縫線核を含む脳スライス標本を用いた電気生理実験による解析を行った結果、Na+/K+-ATPaseの阻害薬であるOuabainや、Na+/K+交換体の阻害薬であるKB-R7943ではオレキシンの作用に有意な阻害作用がなかったのに対して、細胞外ナトリウムの除去、または非選択的陽イオンチャネルの阻害剤であるFlufenamic acid (FFA)によってオレキシン誘発性内向き電流とai-oeAHPの両方が抑制された。さらに、細胞内外のカルシウム除去によりai-oeAHPが消失すること、細胞内セシウムによりai-oeAHPが阻害されないこと、ai-oeAHPによる過分極中に膜抵抗が増加すること、オレキシン誘発性内向き電流:ai-oeAHPの振幅比とそれぞれの状態で観察されるコンダクタンス変化の振幅比が1:0.5で一致することを示す結果が得られた。これら複数の結果からai-oeAHPは、カリウムチャネルの開口に伴う過分極ではなく、オレキシンにより活性化された非選択的陽イオンチャネルが活動電位に伴って細胞内に流入したカルシウムにより一過性に抑制されるため過分極していると考えられる。しかし、非選択的陽イオンチャネルのうちどのチャネルが関与しているかについての同定には至っていないため、さらなる検討をしていく予定である。
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