研究課題/領域番号 |
19K07287
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
石橋 仁 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (50311874)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生理学 / 心臓神経叢 / 自律神経系 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
副交感神経系の機能亢進が心房細動等の不整脈の発生と維持に関わっていることが報告されている。心臓を支配する副交感神経系(迷走神経)に関しては、心臓表面で神経節を形成するとともに、この神経節から伸びる節後線維とその他の外来神経が、神経叢ネットワークを形成して心臓機能を制御していると考えられている。 ブラジキニンは、9個のアミノ酸から構成されるペプチドで、組織損傷等により血漿カリクレインが活性化されることにより作られる。ブラジキニンは、発痛物質として有名であるが、心拍数減少や血圧低下作用など循環器系に対する作用も有する。アンジオテンシン変換酵素(ACE)等の生体内酵素によって分解されるので、ブラジキニンの生体内での寿命は短い。興味深いことに、高血圧治療で用いられるACE阻害薬によって心拍数が減少することがあるが、これには心臓組織へのブラジキニンの蓄積と心臓を支配する副交感神経系の関与が示唆されている。しかし、ブラジキニンの心臓神経叢ネットワークに対する作用は全く明らかにされていない。研究代表者は、ブラジキニンが、心臓表面に存在する神経節ニューロンを興奮させること、また、節前線維から心臓神経節ニューロンへの Ach 伝達を増強すること、を発見した。しかし、これらのメカニズムやその生理学的意義はまったく不明である。そこで本研究では、このブラジキニンの作用メカニズムを解明するとともに、その生理学的・病態生理学的意義を明らかにする。本年度は、急性単離した心臓神経節ニューロンに穿孔パッチクランプ法を適用し、神経節ニューロンのブラジキニン応答について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって、ブラジキニンは、ブラジキニンB2受容体を介してホスホリパーゼCを活性化し、IP3を産生することにより小胞体からCa2+を放出して細胞内Ca2+濃度を上昇させることがわかった。この細胞内Ca2+濃度上昇が、細胞膜の陽イオンチャネルを開口させることにより細胞膜が脱分極することがわかった。この陽イオンチャネルの性質については未だ十分には解明できていないが、ここまでの成果を用いて、ブラジキニンが心臓神経節ニューロンを興奮させるメカニズムとして第39回北米神経科学学会大会で発表することができた。また、Neuropeptides 誌(査読あり)にも英文の原著論文として出版することができた。このように、学会発表および論文発表ができたので、本研究は順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ブラジキニンの心臓神経節興奮作用に関する細胞内メカニズムに関しては、詳細な機序が判明しつつあるが、肝心の膜電位を変化させるイオンチャネルの分子実体は未だ明らかになっていない。従って、今後は、生化学的手法や免疫細胞染色などの手法を用いて、陽イオンチャネルの分子実体について重点的な解析を行ないたいと考えている。また、電気生理学的手法を用いてカリウムチャネルの関与についてもより詳細に解析したいと考えている。なお、心臓神経節ニューロンは、副交感神経の節後ニューロンであることから、節前線維からのアセチルコリンの入力を受ける。そこで、アセチルコリン受容体とブラジキニン受容体の機能連関についても明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた実験が予定通りに進行し、その結果が比較的良い結果であったことから、12月末までに得られた研究成果で、本研究課題の2報目の論文を執筆することにした。そのため、2020年1月~3月の期間に、データの解析や論文執筆を行なった。当初予定していた実験動物を用いた検討を行なわなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額に関しては、本年度予定していた実験を次年度に繰り越して行いたいと考えており、その際に使用する計画である。
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