研究課題
副交感神経系の機能亢進が心房細動等の不整脈の発生と維持に関わっていることが報告されている。心臓を支配する副交感神経系(迷走神経)に関しては、心臓表面で神経節を形成するとともに、この神経節から伸びる節後線維とその他の外来神経が、神経叢ネットワークを形成して心臓機能を制御していると考えられている。ブラジキニンは、9個のアミノ酸から構成されるペプチドで、組織損傷等により血漿カリクレインが活性化されることにより作られる。ブラジキニンは、発痛物質として有名であるが、心拍数減少や血圧低下作用など循環器系に対する作用も有する。アンジオテンシン変換酵素(ACE)等の生体内酵素によって分解されるので、ブラジキニンの生体内での寿命は短い。興味深いことに、高血圧治療で用いられるACE阻害薬によって心拍数が減少することがあるが、これには心臓組織へのブラジキニンの蓄積と心臓を支配する副交感神経系の関与が示唆されている。しかし、ブラジキニンの心臓神経叢ネットワークに対する作用は全く明らかにされていない。研究代表者は、ブラジキニンが、心臓表面に存在する神経節ニューロンを興奮させること、また、節前線維から心臓神経節ニューロンへの Ach 伝達を増強すること、を発見した。しかし、これらのメカニズムやその生理学的意義はまったく不明であった。そこで本研究では、このブラジキニンの作用メカニズムを解明するとともに、その生理学的・病態生理学的意義を明らかにすることを目的に研究を開始した。2020年度は、脱分極のメカニズムを検討し、ブラジキニンがTRPCチャネルを活性化することにより脱分極が起こることを明らかにした。
3: やや遅れている
研究室が入居する建物の建て替えのため、2020年7月に研究室の引っ越しがあった。そのため、実験システムの再構築が必要となり、研究の進捗にやや遅れが生じた。ブラジキニンにより陽イオンチャネルの活性化と M型カリウムチャネルの抑制が生じることから、当初の計画では、陽イオンチャネルの分子実体とともに、M 型カリウムチャネル抑制の意義を明らかにする予定であった。陽イオンチャネルの分子実体についての研究は順調に進展した。しかし、M 型カリウムチャネル抑制の意義までは十分には解明できず、今後の検討課題として残っている。
ブラジキニンの心臓神経節興奮作用にTRPC陽イオンチャネルの活性化が重要であることは明らかになってきたが、ブラジキニンがM型カリウムチャネルを抑制する生理学的意義が未解明のままであることから、今後の研究方針としては、まずはM型カリウムチャネル抑制の意義を解明することを目的として研究を推進する。また、心臓神経節ニューロンは、副交感神経の節後ニューロンであることから、節前線維からのアセチルコリンの入力を受ける。そこで、アセチルコリン受容体とブラジキニン受容体の機能連関についても検討を行う。
研究室が入居する建物の建て替えのため 2020年7月に研究室の引っ越しがあった。そのため、実験システムの再構築が必要となって研究の進捗が遅れ、年度当初に予定した実験を行うことができず、その予算は2021年度に使用とすることにした。なお、使用計画としては、神経節細胞を単理するために使用する実験試薬を購入する予定である。
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Eur J Pharmacol
巻: 886 ページ: 173536
10.1016/j.ejphar.2020.173536