副交感神経の機能亢進が心房細動等の不整脈の発生と維持に関わっていることが報告されている。心臓を支配する副交感神経(迷走神経)は、心臓表面で神経節を形成するとともに、この神経節からのびる節後線維が心臓表面に神経叢ネットワークを形成して心臓機能を制御している。ブラジキニンは9個のアミノ酸から構成されるペプチドで、組織損傷等によって血漿カリクレインが活性化されることにより作られる。ブラジキニンの生体内での寿命は短いが、高血圧治療で用いられるACE阻害剤によって、心臓組織へのブラジキニン蓄積が生じる可能性が示唆されている。しかし、ブラジキニンの心臓神経叢ネットワークに対する作用は全く明らかになっていなかった。 研究代表者は、2021年度までにブラジキニンがTRPCチャネルを介して心臓神経節ニューロンを活性化することを明らかにしたので、2022年度はKCNQチャネルの役割について検討した。具体的には、実験でKCNQチャネルを抑制することなく細胞膜の脱分極を生じさせる高カリウム溶液およびニコチンを用い、それらの脱分極応答に対するKCNQチャネル関連試薬の効果を検証した。 KCNQチャネル活性化薬QO58は心臓神経節ニューロンの静止膜電位を過分極させ、高カリウム液による活動電位の発生を抑制した。一方、KCNQチャネル抑制薬XE991は、静止電位および高カリウム溶液による脱分極の大きさには影響をあたえずに活動電位の発生頻度を著明に増加した。以上の結果から、ブラジキニンはKCNQチャネルを制御することによって活動電位の発火頻度に影響を与えていることが明らかになった。なお、本研究の遂行過程で、XE991がニコチン型アセチルコリン受容体を抑制することもわかった。
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