研究課題/領域番号 |
19K07297
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
杜 成坤 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (90590646)
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研究分担者 |
森本 幸生 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 教授 (50202362)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 拡張機能障害 / 肥大型心筋症 / 心筋エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
肥大型心筋症 (HCM)の早期診断と初期的病態形成機序の解明を目指すために、今年度は幼若期の心筋 Troponin T ノックインマウスモデル(S179Fマウス)に対し、Mーモード・カラードプラ心エコーでの評価、組織病理診断、分子・細胞レベルの解析を行った。 生後30dayのS179Fマウスにおいては、HCMの主な病態である左心室拡張機能障害、心筋錯綜配列、間質線維化は共に現れていた。錯綜配列の発生にはエンドセリンの過剰分泌による可能性、間質線維化の発生にはNADPH oxidase発現量の増加による可能性があると明らかになった。また、筋小胞体膜上CaポンプであるSERCA2aの発現量の減少、SERCA2aの抑制因子であるphospholambanリン酸化レベルの低下が示されており、これらは拡張機能障害発生の重要な原因であると考えられた。しかし、もっと若い時期の生後15dayのS179Fマウスにおいて、心室壁厚の増加、心筋錯綜配列、間質線維化の発生が示さなかったものの、拡張機能障害が生じていることが分かった。タンパク解析によりS179Fマウスでは、SERCA2aの発現の変化がなく、phospholambanリン酸化レベルが低下することが分かった。以上のことにより、S179Fマウスの初期的拡張機能障害の主要原因は、心筋錯綜配列・間質線維化の発生により心筋が固くなることでなく、SERCA2a 活性の抑制により心筋細胞質内のCa2+濃度が下がりにくくなっていることであると示唆された。 生後15dayマウスの単離心筋細胞を用い、細胞内Caトランジェントとサルコメア長を測定したところ、S179Fマウスでは、細胞内Caトランジェントのピークの減少など異常が認められた。心筋細胞収縮・弛緩に需要なエネルギーを迅速に提供するクレアチンキナーゼ(CK)反応において、CK発現量の低下が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31年度・令和元年度において、生後15dayと30dayのS179FマウスにおけるHCMの特徴的病態である左心室拡張機能障害、錯綜配列、間質線維化の診断に対し、Vevo3100超音波システムによる解析、HEとAzan染色による心臓組織病理診断など解析で調べた;HCMの左心室拡張機能障害、錯綜配列、間質線維化の間の関連性や因果関係を検討した;15dayのマウスの心臓から心筋細胞を単離し、IONOPTEXシステムを用いた細胞内Ca2+動態と収縮・弛緩時のサルコメア長の異常があるかどうかを調べた;また、心筋収縮・弛緩に需要なエネルギーを迅速に提供するクレアチンキナーゼ反応における異常のあるかどうかを調べた。これらの状況を踏まえ、本研究は研究計画通りほぼ順調に進んでいると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き、次年度において、S179Fマウスに対し、出生後の早期における酸化ストレスの役割を調べ、データを重ねていく。また、研究計画に従い、心肥大・拡張機能不全には重要なシグナリング経路を分子レベル解析で調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)第97回日本生理学会大会に参加するための旅費に使う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の拡大により、本大会の集会中止となったので、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度の実験計画の抗体・試薬予算に充てる予定である。
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