研究実績の概要 |
ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)は、体内で糖の吸収を担う一方、癌細胞では高発現し、過剰なグルコース取り込みおよび細胞増殖に寄与しており、糖尿病や癌の診断・治療法のターゲットとなっている。ヒトの7つのSGLT (hSGLT) アイソフォームの糖選択性はそれぞれの機能や分布により異なっており、糖結合サイトを形成するアミノ酸配列により決定されると考えられている。この糖選択性の分子基盤解析は、阻害剤の設計など医療への応用につながる重要な知見となる。本研究ではSGLTの糖選択性について電気生理学的手法により解析している。昨年度までにhSGLT1の糖結合部位付近に位置するH83, T287, Y290, K321の変異体の糖特異性が変化することを示した。さらに分子モデリングによりこれらの変異体とそれぞれの糖との結合様式を明らかにし、これらのアミノ酸が輸送する糖の種類に寄与していることを示した。 今年度はSGLTの糖特異性の分子基盤をさらに詳細に明らかにするため、特徴的な糖輸送様式を示すカタユウレイボヤ由来SGLT(CiSGLT)について解析を行った。その結果、CiSGLTの糖に対する親和性は、hSGLT1と比較してグルコースについては100倍、ガラクトースについては10倍程度であった。またマンノース、アロース、ミオイノシトールなど多くの種類の糖を輸送できることを明らかにした。さらに糖結合部位付近の複数の変異体の解析を行い、その中でhSGLT1の変異体と糖選択性が共通するものがあった。これらの知見は、SGLTの糖特異性に関する分子機構は種を超えて共通することを示している。またSGLTの糖に対する親和性や糖特異性は、役割や環境に応じて進化してきたことを示唆しており、ヒトのそれぞれのアイソフォームの特徴、分布を構造的に理解する手がかりとなる。
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