研究課題/領域番号 |
19K07302
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
谷口 睦男 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (10304677)
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研究分担者 |
村田 芳博 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (40377031)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気生理学 / 鋤鼻系 / シグナル伝達 / 相反性シナプス |
研究実績の概要 |
今年度は、これまでの研究で明らかにしたバゾプレシンのV1a受容体を介するIPSC抑制作用の作用点の同定をさらに進めるため、顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達における、バゾプレシンの作用を調べた。CNQXおよびAP5を用いて僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン酸作動性シナプス伝達を遮断しておき、顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達に対するバゾプレシンの作用点が、シナプス前機構か後機構によるのかの特定を試みた。具体的には、僧帽細胞のGABA(1~100 microM)に対する応答を測定した。バゾプレッシンの細胞外投与は、いずれの濃度のGABA応答にも影響を与えなかった。このことは、バゾプレシンのIPSC抑制作用が顆粒細胞‐僧帽細胞間GABA作動性シナプス伝達のシナプス後機構を介さずに生じることを示唆した。 一方、僧帽細胞にパッチ電極を適用し、TTX存在下において顆粒細胞膜の自発性興奮により生じるGABA作動性mIPSCを膜電位固定下で記録した。バゾプレシンの細胞外投与によりmIPSCの発生頻度・大きさについて、累積度数分布解析を行ったところ、僧帽細胞ごとのばらつきが大きく、有意差のある結果は得られなかった。しかし、少なくとも顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達に作用点があることを見出した。 以上の結果は、バゾプレシンのIPSC抑制作用が顆粒細胞‐僧帽細胞間GABA作動性シナプス伝達のシナプス前機構を介して生じることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、バゾプレシンの、細胞レベルでの作用(具体的には相反性シナプス電流に対する作用点)をさらに明らかにすることを目標とした。上記相反性シナプス電流に対する抑制作用に関わっているバゾプレシンの作用点について、顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達に関する新たな知見が得られた。この知見は、複数の異なる記録方法から得られた成果である。フェロモン記憶に必須である上記相反性シナプス伝達の特性に関する従来の知見を着実に発展させるものであり、当該研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 相反性シナプス電流に対するバゾプレッシン受容体の作用 当該年度は、相反性シナプス電流に対する抑制作用を有するバゾプレッシンの作用点(僧帽細胞膜と顆粒細胞膜のどちらか、あるいはその両方か)のうち、顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達について調べた。mIPSCの累積度数分布解析では細胞ごとのばらつきが大きいため、来年度はさらに例数を増やして確実な結果が得られるように解析を継続する。 一方、僧帽細胞のGABAに対する応答を直接測定した当該年度の実験では、バゾプレッシンの作用点が、GABA作動性シナプス伝達のうちシナプス前機構を介することが示唆された。シナプス前機構を介する仕組みの中で広く受け入れられている機構は、シナプス前細胞のCa2+電流の修飾である。そこで、顆粒細胞にパッチクランプ法を適用して顆粒細胞のCa2+電流がバゾプレシンの細胞外投与により影響を受けるかどうか調べる。 (2) 一夫一婦型齧歯類の相反性シナプス伝達に対するバゾプレッシンの作用 研究代表者が見出した、フェロモン記憶に重要な役割を果たしている副嗅球相反性シナプス伝達に対するバゾプレッシンの抑制作用を多角的に捉えるため、プレリーハタネズミ(一夫一婦型齧歯類)を用いて上記相反性シナプス電流に対するバゾプレシンの作用を調べ、これまで得られたマウス(乱交型齧歯類)の結果と比較する。プレリーハタネズミは一夫一婦型であるため、夫婦の絆のモデル動物として研究され、脳神経核でのドーパミン受容体など各種受容体発現量に関する研究は進んでいるものの、絆形成に伴う神経活動変化に関してはほとんど調べられていない。本研究が対象とするフェロモン記憶は夫婦間の絆形成の基盤をなすものであり、多角的な知見が得られると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
・本研究の申請時点では、本研究の研究対象である相反性シナプスのシナプス伝達に影響を及ぼす機能分子を探究するために、様々な機能分子候補それぞれに対する阻害薬および作動薬の購入を計画した。mIPSCの測定では、細胞によってバゾプレシンの作用点にばらつきがあったため、僧帽細胞のGABA応答を直接記録する方法に切り替えた。これにより、余分な阻害薬および作動薬を使用せずに済んだため、経費の節約に役立った。また、測定・解析機器類の一定頻度で生じる故障に備えた修理代・維持費を計上していたが、使用時に細心の注意を払って使用した為、今年度はその必要が余りなかったことも経費の節約につながった。また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、参加予定だった学会がオンライン開催になり、旅費が不要になった。 以上の理由から次年度使用額が生じた。 ・設備備品費として30万円を計上。電気生理測定・解析機器の購入代、修理代、維持費に用いる。薬品は、51万円を計上。各種Ca2+チャネル阻害薬および作動薬、バソプレッシン受容体阻害薬および作動薬など、を購入する。実験動物は、15万円を計上。購入費および飼育代として妥当かつ必要な額を使用する。実験器具は、10万円を計上。ガラス器具、スライス作成時の刃の購入に充てる。論文別刷りは、5万円を計上した。旅費等は14万円を計上した。次年度に開催される学会での研究成果発表に使用予定である。
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