研究実績の概要 |
筋小胞体膜にあるリアノジン受容体(RyR1)は、Ca2+誘発性Ca2+放出(Ca2+-induced Ca2+ release; CICR)の特性を示す。300種類以上のRyR1の点突然変異が同定されており、悪性高熱症(MH)やセントラルコア病(CCD)等の筋疾患を引き起こすと考えられている。たった一つのアミノ酸変異が、この巨大なRyR1チャネル蛋白分子の働きを変調する制御機構や実際の病態との相関は未だ不明な点が多い。RyR1のN末端領域の構造的特徴についての知識を得るために、in silicoで、RyR1の変異体の分子構造を構築することにより、これまでに機能解析をしたMH変異体および野生型の分子動力学(MD)計算を行った。これら結果をもとに、遺伝子点変異マウスを作出し、個体レベルで検証した。RyR1遺伝子点変異マウスのホモは胎生死を引き起こした。野生型マウスでは、2時間のイソフルラン吸入麻酔中、ほとんど体温上昇は見らなかった。一方、ヘテロマウスはイソフルラン吸入開始後20分頃から急激な体温上昇を引き起こし、最終的には43°Cまで体温が上昇して死亡するMH様症状を示した。RyR1阻害薬であるダントロレンの事前投与により体温上昇を阻害した。また、イソフルラン麻酔により体温上昇中のヘテロマウスにダントロレンを投与することで体温低下を引き起こした。これより、RyR1遺伝子点変異ヘテロマウスは悪性高熱症モデル動物として有用であることが示された。本年度は、胎児マウスの骨格筋細胞を用いて実験を行い、ホモ細胞を電子顕微鏡で観察すると、サルコメアが野生型に比べて大幅に短くなっていることを確認した。次に、ホモ接合体と野生型の細胞内Ca2+濃度を測定したところ、ホモ接合体では野生型に比べて細胞内Ca2+濃度が高くなっていた。これらの結果から、死亡してしまうホモ接合体胎児マウスでは、細胞内のCa2+濃度が上昇することで骨格筋が過剰に収縮していることが強く示唆され、これらの成果を論文(JGP,2022)に報告した。
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