研究課題/領域番号 |
19K07310
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
河尾 直之 近畿大学, 医学部, 講師 (70388510)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨粗鬆症 / サルコペニア / メカニカルストレス / Dkk2 / 筋骨連関 |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症とサルコペニアに共通した病態の解明および予防・治療法の開発は、超高齢社会を迎えたわが国において喫緊の課題である。しかし、骨粗鬆症やサルコペニアの両者の病態に共通する重要な体液性因子については不明である。今回の研究では、骨粗鬆症とサルコペニアに共通した要因として重要なメカニカルストレスの変化により骨格筋で変動する体液性因子として、古典的Wnt-βカテニン経路の阻害因子であるDickkop (DKK)2に着目し、病態モデルマウスおよび骨芽細胞、破骨細胞の培養系での機能解析により、メカニカルストレスによって誘導される筋と骨のネットワーク機構におけるDKK2の役割と作用機序を検討する。 マウスを後肢懸垂(HU)した状態で 3週間飼育、またはゴンドラ型遠心機を用いて3 gの重力環境で4週間飼育し、脛骨骨密度(BMD)および下腿筋量を定量CTにより解析した。HUは下腿筋量、腓腹筋およびヒラメ筋重量、海綿骨BMDを減少させた。抗重力筋であるヒラメ筋の網羅的遺伝子発現解析において、HUにより2倍以上発現が増加し、過重力により2倍以上減少する因子としてDKK2が抽出された。この解析において、他のWntシグナル関連分子(Wnt, DKK, SFRP)にこの様な変化はなかった。HUおよび過重力は脛骨DKK2発現に影響を及ぼさなかったが、血中DKK2濃度はHUで増加し、過重力で減少した。実験に用いたマウス検体を用いて、単相関分析を行ったところ、血中DKK2濃度や筋DKK2発現は海綿骨BMDと有意な負相関を示した。以上の結果より、マウスにおいて、メカニカルストレスの低下により抗重力筋のDKK2産生と血中への分泌が増加し、骨に作用することにより骨芽細胞機能抑制と骨密度減少を誘導することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、骨格筋と骨の恒常性維持に重要な要因であるメカニカルストレスの変化により、骨格筋で変動する体液性因子として、古典的Wnt-βカテニン経路の阻害因子であるDKK2に着目し、筋と骨のネットワーク機構におけるDKK2の役割と作用機序を明らかにすることである。本年度は、マウスを用いて、後肢の非荷重と過重力負荷により、抗重力筋であるヒラメ筋において、発現量に反対の動きが見られる因子としてDKK2を抽出し、非荷重により骨量減少にDKK2が寄与することを見出した。また、本成果を第37回日本骨代謝学会学術集会や第97回日本生理学会大会において発表している。現在は、DKK2の骨芽細胞と破骨細胞に対する作用とそれらの機序について、in vitroの実験により詳細な解析を進めている。従って、本研究課題は当初の研究計画の通りおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見に基づいて、当初の研究計画に沿って以下の方策によって研究を推進する。メカニカルストレスによる筋でのDKK2発現制御機構の解析として、マウスから単離した、骨格筋の幹細胞である筋サテライト細胞、筋芽細胞、筋管細胞、あるいはマウス筋芽細胞株C2C12細胞を用いて、剪断ストレスがDKK2の発現に及ぼす影響を分子生物学的に検討する。次に、DKK2の筋と骨への作用とそのメカニズムの検討を、DKK2のリコンビナントタンパク添加あるいは発現ベクター過剰発現、siRNAによる内因性因子の発現抑制により、マウスから単離した筋サテライト細胞、筋芽細胞、筋管細胞、C2C12細胞、マウスの初代培養骨芽細胞、骨芽細胞様MC3T3-E1細胞、マウス骨髄細胞あるいは単球様RAW264.7細胞を用いたin vitro実験系で行う。さらに、骨粗鬆症およびサルコペニア病態におけるDKK2の役割の検討として、精巣摘出によるアンドロゲン欠乏、ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病、プレドニゾロン慢性投与によるグルココルチコイド過剰などの病態マウスを用いて、骨格筋および骨代謝指標と、血中DKK2濃度との関連を解析する。強い相関関連が見られた病態マウスについては、DKK2の阻害抗体投与によって、筋量、筋機能、骨密度の低下に対する治療効果を検討する。
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