TRICチャネルのサブタイプ(AおよびB)は、小胞体膜上でカウンターイオンチャネルとして機能している。TRIC-Aは心臓などの興奮性組織に発現している。TRIC-Bは、全身に普遍的に発現している。TRIC-AとBの二重欠損(KO)マウスは胎生期に心不全で死亡することから、両サブタイプは心臓で重要な機能を担っていると考えられる。全身性のTRIC-B-KOマウスでは、II型肺胞細胞のサーファクタント産生と分泌が障害され、肺胞形成障害と新生致死が観察される。そこで、心臓特異的なTRIC-B-KO(cKO)マウスを作製し、心臓におけるTRIC-Bの機能を検討した。 cKOマウスは生後30~60週で死亡することがわかった。心臓の経時変化を確認するため、12週齢、20週齢、30週齢、40週齢で病理組織学的解析を実施した。その結果、cKOマウスは野生型マウスに比べて12週齢以上で血中トロポニン濃度が有意に高く、またcKOマウスは20週齢以上で著しい心筋線維化を示し、30週齢以上で心肺重量が増加した。さらに、cKOマウスは40週齢で体重の減少、心筋細胞の変性、心房血栓を示した。これらの所見は心不全様病態を示すものであるため、心収縮機能を心エコー計測で調べたところ、30週齢以降で心機能の低下が観察された。12週齢において単離心筋細胞のCa2+トランジェントを評価したところ、振幅の低下と取り込みの遅延が観察された。以上の結果は、12週齢の段階ですでにcKO心筋細胞において何らかの異常が生じているものと考えられる。 今後、より詳細な解析により心臓におけるTRIC-Bの機能的役割の解明につなげたい。
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