研究課題
近年、医学や医療技術の進歩により救急救命率は大きく向上してきた。しかし高齢者においては、細菌感染に伴う敗血症を起こしやすく、さらに脳の炎症反応を引き起こして長期予後の精神障害、 認知機能の低下を招くことが多く、予後のQOLを著しく低下させることが課題となっている。敗血症などによる全身性炎症状態から認知機能の低下をもたらす原因としては、敗血症時の睡眠の断片化やREM睡眠の減少、さらには集中治療室の環境や痛みなどによるせん妄を含めた睡眠障害などが考えられている。オレキシンは睡眠・覚醒制御に関わる神経ペプチドであり、代表者らはすでにオレキシンが中枢性の抗炎症効果を示すことを見出しているが、今年度は、敗血症性・全身性炎症モデルマウスにおいて、オレキシンが敗血症下の脳波に及ぼす効果を調べるとともに、脳波測定が敗血症予後の指標として有効性があるかどうかに視点を置いて検討した。野生型マウス(C57BL/6J)に脳波・筋電図測定電極を装着手術後十分な回復期間を設け、暗期前にオレキシン、コントロールとして生理食塩水を側脳室内から持続投与した。その後、リポポリサッカライド(LPS)により敗血症性・全身炎症を惹起させ、脳波・筋電図を観察した。これまでの研究から、敗血症時の脳波はNREM睡眠が増加しREM睡眠は減少し、脳波は低電位でδ波の低下が顕著であることがわかっている。オレキシン持続投与群では生理食塩水投与群と比較してδ波ならびにREM睡眠の早期回復が観察された。すでにLPSによる敗血症モデルマウスで、オレキシンの脳室内投与で生存率を回復させることを見出していることから、オレキシン投与による脳波の改善が生存率の指標となると考えられる。また、敗血症などの全身性炎症状態からのオレキシンによる早期回復が、せん妄の予防など認知機能の維持に関わることが示唆された。
3: やや遅れている
当初の計画では一年目に認知機能評価系を確立する予定であったが、敗血症時の脳波・筋電図解析に時間がかかり、評価系の確立が遅れている。脳内ミクログリア活性化の免疫組織化学的評価については、定量的な評価が遅れている。
1.敗血症後の認知機能の適切な評価系の確立とオレキシン効果の評価LPS投与による敗血症性全身性炎症モデルにおいて、LPS投与前後で認知機能を評価する(新規物質探索試験、Y字迷路試験、恐怖条件付け試験など)。オレキシン投与群、あるいはオレキシン受容体作動薬投与群と生理食塩水投与群で同様に比較する。2.LPSにより敗血症を惹起し、オレキシンの脳室内投与あるいはオレキシン受容体作動薬投与による脳内ミクログリアの活性化部位について、ミクログリア特異的抗体であるIba-1抗体、神経活動の指標であるFos抗体などを用いて免疫組織化学的に調べ、オレキシンの脳内炎症抑制効果と神経保護作用について検討する。
認知機能評価実験に使用する予算を、実験の遅延に伴い次年度に持ち越した。
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