研究課題/領域番号 |
19K07314
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
入鹿山 容子 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 研究員 (90312834)
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研究分担者 |
桜井 武 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60251055)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オレキシン / 敗血症 / 脳波 / 全身炎症 |
研究実績の概要 |
近年、日本を初めとした先進諸国では、高齢者の増加や医学の進歩による難治性疾患患者の長寿化に伴い、感染症や術後の侵襲によるうつ病などの精神疾患、不眠症、認知症の発症率が増加しており、医療費への圧迫が深刻な問題となっている。集中治療室(ICU)環境にいる患者の睡眠は極度に分断化され、徐波睡眠やレム睡眠が欠如するという特徴を持つ。さらに過度の鎮静によりせん妄を伴う場合が多く、予後の認知機能に影響を及ぼしQOLの低下を招いている。患者予後に影響を与えるせん妄に対しては、早期理学療法しかない現状で、睡眠障害をターゲットとした介入が注目されている。 本研究では敗血症性全身炎症モデルマウスを作成し、オレキシンの覚醒調節作用に着目して全身炎症下での睡眠改善効果と予後の認知機能との関連性について調べる。今年度は敗血症モデルマウスにおいて脳波が予後の指標として有効性があるかどうか、特に認知機能と関わるレム睡眠を中心に評価した。マウスに脳波・筋電図測定電極を装着したのち十分な回復期間後に実験を開始した。暗期前(ZT10.5)に脳室内から比較的高濃度のオレキシンA(0.05mg/head 6 min)を一過性に投与した後、ZT11にLPS(0.5mg/kg)を投与することにより全身性炎症を惹起させ脳波・筋電図を観察した。 全身性炎症を惹起した後の脳波はノンレム睡眠が増加しレム睡眠は減少した。オレキシンA投与群では生理食塩水投与群と比較してLPS投与後のレム潜時が有意に短かかった(960.8±90.1分vs.466.6±117.7分, P=0.001, unpaired t-test)。さらに、全身炎症惹起後の暗期12時間における覚醒時間、明期12時間におけるレム睡眠時間に関しては、生理食塩水投与群と比較して有意に増加した。これによりオレキシン投与による脳波の改善が予後指標となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍における制限また、来年度からの所属の異動などがありその準備のため、全体的評価が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
オレキシン前投与により全身性炎症下での異常な睡眠からの早期回復が観察され、特にレム睡眠が早く回復した。レム睡眠は記憶や認知機能との関連が報告されていることからオレキシンが全身炎症後の認知機能回復に有効ではないかと考えている。 ①全身性炎症モデルマウスにおいて、オレキシン脳室内投与群と生理食塩水投与群で24時間後の認知機能についてLPS投与前と比較して評価する(新規物質探索試験、Y字迷路試験、恐怖条件付け試験など)。 ②レム睡眠に関わる部位の神経活動について調べるため、神経活動のマーカーであるFosについて、さらには近傍のグリア細胞との相互作用を免疫組織化学的手法により評価する。 LPS投与後、急性期4時間と22時間後を評価する。LPSにより全身性炎症を惹起し、オレキシンの脳室内投与後の脳内ミクログリアの活性化部位について特異的抗体であるIba-1抗体で染色し免疫組織化学的に調べる。 これにより、全身性炎症下でのレム睡眠の改善に関わるオレキシンの作用部位を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍での実験の制限や、来年度からの所属の異動などの準備のため、全体的評価が遅れた。
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