研究課題
近年、日本を初めとした先進諸国では、高齢者の増加や難治性疾患患者の長寿化に伴い、感染症や術後の侵襲によるうつ病などの精神疾患、不眠症、認知症の発症率が増加しており、医療費への圧迫が深刻な問題となっている。中でも、集中治療室(ICU)環境にいる患者の睡眠は極度に分断化され、徐波睡眠の増加やレム睡眠が欠如するという特徴を持つ。さらに睡眠リズムの乱れは、せん妄や予後の認知機能障害などの合併症につながりQOLの低下を招いている。患者予後に影響を及ぼす、せん妄に対しては早期理学療法しかない現状で、睡眠障害をターゲットとした介入が注目されている。本研究では敗血症性全身性炎症モデルマウスを作成し、オレキシンの覚醒調節作用に着目して全身炎症下での睡眠改善効果について報告してきた。さらに、今年度は臓器保護・抗炎症作用を有する吸入麻酔薬であるセボフルランの全身炎症時における睡眠への影響を検討した。マウスに脳波・筋電図測定電極を装着したのち十分な回復期間後に実験を開始し、暗期前(ZT10.5)にセボフルランを予め吸入させた後、ZT11にLPS(0.5mg/kg)を投与することにより全身性炎症を惹起させ、脳波・筋電図を観察した。特に認知機能と関わるレム睡眠を中心に評価を行った。全身性炎症を惹起した後の脳波は、ノンレム睡眠が増加しレム睡眠は減少したが、セボフルランの前投与では、非投与群と比較してレム睡眠の出現が早くなり、全体におけるレム睡眠時間、レム睡眠の出現頻度も正常時と同等までに回復することが明らかになった。さらにセボフルラン投与群では非投与群と比較して、レム睡眠をつかさどる神経核である脚橋被蓋核・外側被蓋核のアセチルコリン神経の活動が回復していた。全身炎症時においてセボフルランが神経核の活動を維持することがレム睡眠回復のメカニズムとして考えられた。
3: やや遅れている
コロナ禍における実験実施の制限や、今年度からの所属の異動、さらには異動先の研究棟引っ越しなどの影響でセットアップが遅れ、全体的に研究の進捗が遅れている。
これまでの研究で、オレキシン前投与により全身性炎症モデルマウスでの異常な睡眠からの早期回復が観察され、特にレム睡眠が早期に回復することを報告した。さらに抗炎症作用を有するセボフルランの前投与により、量的にも質的にもレム睡眠を改善することを見出した。レム睡眠は記憶や認知機能との関連が報告されている(Yaffe K, Lancet Neurol., 2014)ことから、オレキシンさらにはセボフルランの前投与が全身炎症後の認知機能回復に有効ではないかと考えた。そこで、①全身性炎症モデルマウスにおいて、オレキシン脳室内投与またはオレキシン受容体作動薬、またはセボフルラン前投与群と対症薬投与群とで24時間後の認知機能について、LPS投与前と比較して評価する(新規物質探索試験、Y字迷路試験、恐怖条件付け試験など)。②全身性炎症モデルマウスにおいて、オレキシン脳室内投与またはオレキシン受容体作動薬投与後のレム睡眠に関わる部位の神経活動について、神経活動のマーカーであるFosについて免疫組織化学的に調べる。
コロナ禍での実験の制限や、今年度に所属を異動、さらには異動先の研究棟の移転などで全体的に研究の遅れを生じたため。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Journal of Sleep Research
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