研究課題
近年、日本を含む先進国では長寿化に伴い、精神疾患や不眠症、認知症の発症率が増加している。高齢者は免疫力が低下し、細菌感染による敗血症を起こしやすくなっている。敗血症は脳の炎症反応を引き起こすため、認知機能の低下をもたらすことが多いといわれている。また、集中治療室(ICU)環境下では、人工呼吸器や点滴、薬剤の使用などによって睡眠が分断化されることがあり、せん妄を伴う場合が多く、認知機能の低下やQOLの低下を引き起こすことが報告されている。そこで、睡眠を改善することが重要視されている。具体的には、せん妄の予測因子として知られる高周波数の脳波の維持が重要であり、睡眠の改善によって、せん妄予防や認知機能の維持に役立つことが示唆されている。本研究ではマウスに脳波・筋電測定電極を装着したのち、敗血症性全身炎症モデルマウスを作成した(LPS腹腔内投与により誘導)。LPS投与後24時間の脳波を計測した後、20秒を1単位としてレム、ノンレム、覚醒の3ステージに分けた。さらに、各ステージにおけるθ波やα波・β波といった周波数の高い脳波の全体に占める割合を求めた。オレキシン・オレキシン受容体拮抗薬や吸入麻酔薬セボフルランの投与によって、全身性炎症下の睡眠を改善することが可能であることが示された。特に、レム睡眠時のθ波の回復が顕著であり、高周波数の脳波の割合も回復傾向にあったことから、睡眠の改善がせん妄予防や認知機能の維持に役立つことが示唆された。
3: やや遅れている
コロナ禍における実験の制限や、研究棟の引っ越しなどの影響でセットアップが遅れ、全体的に研究の進捗が遅れている。
これまでの研究で、睡眠の改善がせん妄予防や認知機能の維持に役立つことが示唆されている。また、最近の研究では高周波数脳波の維持がせん妄のリスク低下には重要であることが知られている。本研究で、マウスの脳波解析から、記憶や認知機能と関わるレム睡眠など、また高周波数脳波の回復が顕著に観察された、全身性炎症モデルマウスで、巣作り行動と高周波数脳波の改善作用には正の相関があることが示されている(David C. Consoli, Brain Behvior, and Immunity, 2023)。今後の研究においては、全身性炎症モデルマウスを用いて、オレキシン系・セボフルランの脳波改善効果と巣作り行動との相関を調べることにより、睡眠改善がせん妄予防や認知機能の維持に重要であることを検証する予定である。
コロナ禍での実験の制限や、研究棟などの移転で全体的に研究の遅れが生じたため。使用計画としては、全身性炎症モデルマウスを作成し脳波測定、行動観察をするために野生型マウスを購入する。また、脳波測定のための電極などの消耗品費として使用する予定である。
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