研究課題/領域番号 |
19K07321
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石澤 有紀 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 准教授 (40610192)
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研究分担者 |
中馬 真幸 徳島大学, 病院, 特任助教 (20819289) [辞退]
堀ノ内 裕也 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (30716593) [辞退]
座間味 義人 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 准教授 (70550250)
武智 研志 徳島大学, 病院, 特任助教 (90793240) [辞退]
合田 光寛 徳島大学, 病院, 特任助教 (40585965)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 内皮間葉転換 / ERK5 / 血管内皮細胞 / 担がんモデルマウス / 医療ビッグデータ |
研究実績の概要 |
本研究は転移発症の重要な病態であると考えられる内皮間葉転換 (EndMT) を標的とし、その分子機構を明らかにするとともに、EndMTに対して抑制的に働くことが示唆されているERK5の腫瘍進展・転移における役割を解明することで、新たながん転移予防戦略の開発を目指すものである。 培養ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC) を用いたin vitro実験によりEndMTを惹起する実験条件の確立に取り組んだ。EndMTを誘導するTGF-β でHUVECを刺激すると、内皮細胞マーカーであるCD31の発現が低下したが、ERK5活性化剤であるピタバスタチンを処置した細胞ではTGF-β刺激によるCD31の発現低下を認めなかった。このことから、培養細胞においてERK5活性化が内皮細胞としての性質の保持に寄与している可能性が示された。さらに、血管内皮細胞特異的ERK5ヘテロ欠損マウスを用いて担がんモデルを作成し腫瘍の増大に対する影響を検討した。その結果、マウス結腸癌由来細胞株 (colon-26) では腫瘍の生着を認めなかったが、ルイス肺がん由来細胞 (LLC) は経時的な腫瘍の増大を認めた。仮説ではERK5ヘテロ欠損によりEndMTが誘導され、腫瘍の増大に促進的に働くと考えていたが、現在少数例の個体において、むしろ腫瘍の増大が緩徐になっている傾向を認めている。試行数を増やしさらなる解析を行なっているところである。 これまでにがんゲノム・ビッグデータであるTCGAデータベースを用いて、ERK5によって負に制御されているVEGF、またVEGF受容体の腫瘍における発現増加は予後の悪化をきたすことを見出している。そこで、診療報酬明細書(レセプト)データベースを用い、抗VEGF薬を使用された患者データを抽出した。現在その患者背景、予後に対する抗VEGF薬の影響について解析を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベース研究、in vivo研究、in vitro研究を並行して、多面的にアプローチをしている。動物実験では内皮細胞特異的ERK5欠損マウスを用いた担がんモデルマウスを確立し、検討を行なっているところである。さらに、新たな医療ビッグデータとしてレセプトデータベースの解析手法を構築しつつあり、生命科学データベース解析と合わせて新たな知見を得るプラットフォームを整備している。COVID-19の拡大により度重なる研究活動の縮小・中断を余儀なくされている状況下においては、比較的順調な進捗であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き内皮細胞特異的ERK5欠損マウスを用いて担がんモデルマウスを作成し、腫瘍の増大、転移への影響について検討する。腫瘍の増大に対するヘテロ欠損の影響が、仮説に反するものであったことから、傾向を明らかにするために必要なサンプルサイズを再計算し、施行数を増やして検討を重ねる。また、腫瘍組織内の形状に肉眼的所見上差を認めていることから、その原因について、組織学的検討及びリアルタイムPCR法等を用いた生化学的検討により腫瘍の構成成分について明らかにする。また培養血管内皮細胞を用いたin vitro実験において変動を認めたCD31、及びTCGAデータベースで変動を確認している一酸化窒素合成酵素やVEGFの発現変動について、ERK5欠損が与える影響について検討する。 以上の基礎実験と並行して、データベースを用いた解析を進める。TCGAデータベースを用いて各種悪性腫瘍におけるEndMT関連分子、ERK5シグナル伝達経路関連分子等の遺伝子発現について解析する。さらに、レセプトデータベース、あるいは医薬品有害事象自発報告データベースに収載されるデータから、ERK 5活性に影響を及ぼす可能性のある各種薬剤(抗VEGF薬、スタチン系薬剤、抗マラリア薬など)投与ががん患者の臨床転帰に及ぼす影響について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に研究成果の発表及び情報収集を目的として学会に参加する予定であったが、COVID-19感染拡大により各種学会が中止、あるいはオンライン開催となったために、旅費として計上していた費用が必要なくなったため、次年度使用額が生じた。今年度、学会開催が再開された場合はその旅費として使用する予定である。しかしながら、2021年度も新型コロナの終息が見えない場合は、翌年度分として請求した研究費と合わせてin vivo、in vitro実験に必要な各種消耗品の購入に使用する。
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