研究課題/領域番号 |
19K07322
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
塚原 完 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (00529943)
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研究分担者 |
松田 佳和 日本薬科大学, 薬学部, 教授 (20377633)
羽二生 久夫 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (30252050)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環状ホスファチジン酸 / ミクログリア / アデニンヌクレオチド輸送体 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
海馬におけるミクログリアの活性化は神経炎症を引き起こし、神経細胞傷害に関与する可能性が示され、神経変性疾患の発症機序におけるグリア細胞の役割が注目されている。我々は神経機能性脂質の一つである環状ホスファチジン酸(cPA)の代謝安定体である2-カルバcPAに対するミクログリア結合タンパク質を同定した。nanoLC-MS/MS質量分析により明らかにされたタンパク質はアデニンヌクレオチド交換輸送体(ANT2)と呼ばれるミトコンドリア関連タンパク質であった。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー産生を司り、呼吸鎖と呼ばれるタンパク複合体によりアデノシン2リン酸(ADP)をリン酸化することで、エネルギー源であるアデノシン3リン酸(ATP)を産生する。このATPはアデニンヌクレオチド交換輸送体(ANT)によりミトコンドリアから細胞質へ運搬され利用される。これまでの実験から、cPAは動物の脳に比較的高濃度で存在していることが報告されており、神経細胞を低酸素に曝露したときに引き起こされるアポトーシスが、cPAによって抑制されることも明らかになっていた。しかしながらその作用機序は明らかにされていなかった。本研究において抗炎症作用を有するcPAの標的分子を明らかにすることができた。神経炎症は、中枢神経疾患の発症や進行に深く関わっていることが明らかとなっている。脳をはじめとする中枢神経組織では、免疫を担うミクログリアが主に炎症反応を引き起こすことから、cPAはこの炎症反応を制御し、炎症から神経細胞を保護していることが期待される。cPAとミクログリアをターゲットとする中枢神経疾患の新たな予防法・治療法の開発を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
cPAの代謝安定体である2カルバcPA (2ccPA)を用いて、ミクログリア細胞に特異的に結合するタンパク質を同定した。本年度は、アジド2ccPAをアルキンビーズとクリック反応により結合させた磁気ビーズを調製し、ミクログリア細胞抽出液と反応させることで2ccPAに特異的に結合するタンパク質を質量分析法により解析した。cPAの標的分子としてミトコンドリアタンパク質の1つであるアデニンヌクレオチド輸送体2(ANT2)を候補として明らかにしている。本年度は、ミクログリア細胞における抗炎症効果を確認したところ、リポポリサッカライド(LPS)依存的な炎症作用を抑制すること、また、酸化ストレスによる傷害から神経細胞を保護することを見出した。さらに関連論文を5報発表しており、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
全身における慢性炎症は、脳内炎症を誘発し、認知機能を低下させる。これらの過剰な炎症作用がcPAにより抑制的に制御され、神経細胞死抑制効果をもたらすことを明らかにした。脳における免疫細胞であるミクログリアの活性化により引き起こされる脳内炎症が、周辺の神経細胞を損傷させ、認知機能を低下させることを我々は予想している。今回同定した新規標的分子はα-シヌクレインの凝集・蓄積などにも関与することが報告されていることから、cPAによる神経細胞傷害抑制作用がパーキンソン病やレビー小体型認知症の予防・治療薬への開発へもつながることを期待している。今後の推進方策として、これらの疾患治療薬の基礎研究が重要であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症により参加発表予定であった学会年会が中止となったため。 中止となった旅費は今年度開催される学会年会に充てる予定。
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