研究課題
海馬におけるミクログリアの活性化は神経炎症を引き起こし、神経細胞傷害に関与する可能性が示され、神経変性疾患の発症機序におけるグリア細胞の役割が注目されている。我々は神経機能性脂質の一つである環状ホスファチジン酸(cPA)の代謝安定体である2-カルバcPAに対するミクログリア結合タンパク質を同定した。nanoLC-MS/MS質量分析により明らかにされたタンパク質はアデニンヌクレオチド交換輸送体(ANT2)と呼ばれるミトコンドリア関連タンパク質であった。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー産生を司り、呼吸鎖と呼ばれるタンパク複合体によりアデノシン2リン酸(ADP)をリン酸化することで、エネルギー源であるアデノシン3リン酸(ATP)を産生する。このATPはアデニンヌクレオチド交換輸送体(ANT)によりミトコンドリアから細胞質へ運搬され利用される。これまでの実験から、cPAは動物の脳に比較的高濃度で存在していることが報告されており、神経細胞を低酸素に曝露したときに引き起こされるアポトーシスが、cPAによって抑制されることも明らかになっていた。しかしながらその作用機序は明らかにされていなかった。本研究において抗炎症作用を有するcPAの標的分子を明らかにすることができた。神経炎症は、中枢神経疾患の発症や進行に深く関わっていることが明らかとなっている。脳をはじめとする中枢神経組織では、免疫を担うミクログリアが主に炎症反応を引き起こすことから、cPAはこの炎症反応を制御し、炎症から神経細胞を保護していることが期待された。cPAとミクログリアをターゲットとする中枢神経疾患の新たな予防法・治療法の開発が今後重要となる。
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