研究課題/領域番号 |
19K07326
|
研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
勝山 真人 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60315934)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 活性酸素種 / 組織線維化 |
研究実績の概要 |
組織線維化は不可逆的な変化であり、根治可能な薬物療法は現在のところ存在しない。NOX4は活性酸素種(ROS)を産生するNADPHオキシダーゼの触媒サブユニットの一分子種であり、NOX4が産生するROSは組織線維化に重要な役割を果たすが、その分子機構は未解明の点が多い。 申請者はヒト肺由来線維芽細胞であるIMR-90細胞において、NOX4に対するRNA干渉により、TGF-β受容体の共役受容体であるエンドグリンの発現が蛋白レベルで減少することを見出した。種々の阻害剤やRNA干渉による検討から、NOX4由来ROSが膜からセラミドを切り出す中性スフィンゴミエリナーゼの一種であるnSMase3の活性を抑制し、セラミドにより活性化されるPKCλ/ιの活性抑制を介してエンドグリンを安定化・膜表面での機能的発現を維持し、TGF-βのシグナリングを増強する可能性が示唆された。 NOX4由来ROSによるnSMase3の酸化還元状態の変化をウエスタンブロット法により確認しようと試みたが、明確な変化は観察されなかった。一方膜透過性のセラミド誘導体であるC6セラミドがエンドグリン蛋白量を減少させたことから、エンドグリンの発現はセラミドにより調節されることが示唆された。 細胞内のセラミド濃度は、SMaseを介するスフィンゴミエリンの分解あるいはセラミドシンターゼによるde novoのセラミド合成と、セラミダーゼによる分解により調節されている。そこで酸性セラミダーゼ阻害薬のARN14988、アルカリセラミダーゼACER2およびACER3に対するsiRNA、セラミドシンターゼを阻害するFumonisin B1の効果を確認したが、エンドグリン蛋白量に対する明確な効果は確認できなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
概要に述べた実験を集中的に行ったため、計画していた他の実験をほとんど進めることができなかった。 進行が遅れているのは、用いているIMR-90細胞の増殖が極めて遅いことが一因である。またセラミドがエンドグリン蛋白の減少に関わることは示せたが、セラミド合成・分解に関わるどの酵素がNOX4由来ROSによる調節を受けているかはまだ証明できていない。セラミド合成・分解に関わるある酵素を阻害すると、他の酵素の発現や活性が変化することが知られており、セラミド濃度維持のための巧妙な代償機構の存在が解析の妨げとなっていると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
NOX4由来ROSによるエンドグリンの機能的発現に関わるセラミド関連酵素がnSMase3か否か、他のヒト肺由来繊維芽細胞株を用いて確認する。またセラミド濃度維持のための代償機構の存在の可能性を考え、特にnSMase3の発現を抑制した際の他のセラミド関連酵素の発現量の変化を確認し、一連の現象の鍵となる酵素を同定する。 一方申請者はNOX4 mRNAより4塩基だけ欠失したスプライスバリアントNOX4A mRNAが肺由来線維芽細胞に発現すること、それを過剰発現させた細胞ではROS産生が亢進することを見出し、NOX4AがNOX4のN末端約50アミノ酸に相当する小さな蛋白であることを示唆する知見を得ている。NOX4Aは直接ROSを産生するのではなく、他のROS産生系を亢進、あるいはROS消去系を抑制するものと予想される。そこでNOX4Aの細胞内局在を明らかにするとともに、NOX4Aの発現による遺伝子発現の変化を、トランスクリプトーム解析により明らかにする。さらにHaloTag法を用いてNOX4A と会合する分子を探索し、質量分析により同定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた複数の実験のうち、ひとつに集中して取り組んだことにより、他方の実験に用いる予定だった研究試薬類を購入しなかったため。これらの試薬を今年度購入する。
|