組織線維化は不可逆的な変化であり、根治可能な薬物療法は現在のところ存在しない。NOX4は活性酸素種(ROS)を産生するNADPHオキシダーゼの触媒サブユニットの一分子種であり、NOX4が産生するROSは組織線維化に重要な役割を果たすが、その分子機構は未解明の点が多い。 申請者はヒト肺由来線維芽細胞であるIMR-90細胞において、NOX4に対するRNA干渉により、TGF-β受容体の共役受容体であるエンドグリンの発現が蛋白レベルで減少することを見出した。種々の阻害剤やRNA干渉による検討から、NOX4由来ROSが膜からセラミドを切り出す中性スフィンゴミエリナーゼの一種であるnSMase3の活性を抑制し、セラミドにより活性化されるPKCλ/ιの活性抑制を介してエンドグリンを安定化・膜表面での機能的発現を維持し、TGF-βのシグナリングを増強する可能性が示唆された。 NOX4に対するRNA干渉によるエンドグリンの発現低下により、TGF-βのシグナル伝達が抑制されるのかどうかを、IMR-90細胞は増殖が遅く扱いが困難なため、同じくヒト肺由来線維芽細胞であるTIG-3細胞を用いて解析した。まずNOX4に対するRNA干渉によりエンドグリンの発現が蛋白レベルで減少することを確認した。TIG-3細胞にSmad binding element(SBE)を連結したルシフェラーゼベクターとNOX4に対するsiRNAを導入し、TGF-βで刺激した際の転写活性化を比較したところ、SBE依存的な転写活性化はNOX4に対するRNA干渉で有意に抑制された。TGF-βで発現が誘導されるNOX4と、NOX4により機能的発現が維持されると考えられるエンドグリンの間には、組織線維化を増悪させるfeedforward regulationが存在することが示唆された。
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