2021年度では、膵臓がん細胞としてMIA-Paca2細胞と、CRISPR-Cas9システムを利用したゲノム編集によりBmal1遺伝子をノックアウトしたMIA-BKO細胞を用いた検討を行った。次世代シーケンサーによるRNA-シーケンス解析を行った結果、発現量に細胞間で2倍以上の差を認めたものは2985遺伝子あり、うち1771遺伝子はMIA-BKO細胞において発現量が2倍以上であった。KEGGデータベースをもとにパスウェイ解析を行ったところ、MIA-BKO細胞では細胞接着関連分子群の発現量が増加していることが示された。続いて、両細胞の細胞特性を検討したところ、MIA-BKO細胞では対照のMIA-Paca2細胞と比較して、培養中に認めるコロニー形成様細胞凝集が少なかった。また、細胞増殖速度やスクラッチアッセイによる細胞遊走能もMIA-BKO細胞の方が小さい傾向であった。さらに、抗腫瘍薬(ゲムシタビン)に対する感受性はいずれの細胞も良好で、細胞間に顕著な差は認めなかった。 これまでに、他の膵臓がん(BxPC-3)細胞ではBmal1遺伝子をノックダウンすると細胞増殖速度が低下することが報告されている。この知見はMIA-Paca2細胞を用いた本研究の成績と相反するものである。MIA-Paca2細胞は通常培養条件下でもコロニー形成様細胞凝集を形成しやすいことから、幹細胞性が強い可能性がある。既報で使用されたBxPC-3細胞は腺がん細胞であり、通常培養条件下でコロニー形成様細胞凝集はあまり認めない。以上より、膵臓がん細胞であっても、時計遺伝子Bmal1の細胞悪性度に及ぼす影響は細胞によって正反対になることが示唆された。
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