研究課題/領域番号 |
19K07331
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
一瀬 千穂 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (10247653)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テトラヒドロビオプテリン / チロシン水酸化酵素 / 一酸化窒素 / 持続勃起症 / 自律神経 |
研究実績の概要 |
テトラヒドロビオプテリン(BH4)は、芳香族アミノ酸水酸化酵素および一酸化窒素(NO)合成酵素(NOS)の活性に必須のコファクターである。このため細胞内のBH4量や利用効率が変化すると、神経伝達物質であるモノアミンやNOの産生が大きく変化する。この研究ではBH4の生合成・再還元にかかわる複数の酵素の遺伝子改変マウスおよび組織・培養細胞を用いて、BH4と循環器疾患および神経・精神疾患の関連について明らかにする。この研究では、BH4欠損で生じる不安定な高血圧と持続勃起症(Priapism)のメカニズム、自律神経系とNO産生系の相互調節、BH4による部位特異的チロシン水酸化酵素(TH)タンパク質量の維持機構について重点的に解明することを中心に解析を行う。 2020年度は野生型およびPriapismを発症したセピアプテリン還元酵素(SPR)遺伝子ノックアウトマウス(Spr-/-)にBH4・2HClとアスコルビン酸を含むvehicleを反復投与し、症状の改善と組織中のプテリジン、モノアミン、THおよび神経型NOS(nNOS)のタンパク質量、NO代謝物を比較した。またSPR遺伝子を組織特異的かつ誘導的に破壊するため、共同研究先より導入したSpr-floxedマウス(SPR遺伝子中にLoxPサイトを挿入)およびTh-floxed, DBH-CreERT2マウス(TH遺伝子中にLoxPサイトを挿入しかつ組み換え酵素Creとエストロゲン受容体の融合分子をノルアドレナリンおよびアドレナリン産生細胞で発現する)の交配を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Spr-/-マウスで発症するPriapismの機序の解析 Spr-/-マウスPenile homogenate中のBH4およびtotal Biopterin量は、野生型のそれぞれ0.69%、8.1%の低値であり、ノルアドレナリン(Nad)量は、野生型の17.4%であった。eNOS、PDE5Aのタンパク質量にはSpr-/-と野生型で有意差がなかったが、THはSpr-/-で大きく減少し、nNOSは有意に増加していた。Spr-/-マウスのNO代謝物は、野生型の1.59倍の高値であった。 4-11カ月齢の野生型マウスおよびPriapismを発症したSpr-/-マウスにBH4・2HCl (50 mg/kg)とアスコルビン酸1mMを含むvehicleを10日間腹腔内投与したところ、BH4投与群ではPriapism症状が有意に改善した。BH4投与群のpenile homogenate中のNad量、BH4量、total Biopterin量は、vehicle投与群のそれぞれ7.12倍、3.58倍、15倍に達した。これに対し、BH4投与群のNO代謝物は、vehicle投与群の46.3%の低値であった。Spr-/-マウスではBH4量が減少しているにもかかわらず、PenisにおいてはNOの過剰産生が起き、BH4を反復投与することによりNOの産生が抑制されることでPriapism症状が改善すると考えられる。 (2)Cre-loxPシステムを用いた組織特異的BH4産生酵素遺伝子破壊マウスの解析 共同研究先より導入したSpr-floxedマウスおよびTh-floxed, DBH-CreERT2マウスの交配を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Spr-/-マウスで発症するPriapismの機序の解析 BH4およびvehicleを投与したSpr-/-マウスのPenis組織中のTHおよびnNOS、eNOSのタンパク質とmRNA量を定量・比較し、BH4不足時での交感神経系とnNOS神経系との相互調節を明らかにする。またSpr-/-マウスにα2受容体Agonist、Muscarine受容体Antagonist、Nicotine受容体Antagonist、L-threo-DOPSの投与を行い、NO過剰産生のメカニズムを明らかにする。 (2)Cre-loxPシステムを用いた組織特異的BH4産生酵素遺伝子破壊マウスの解析 Spr-floxedマウスおよびTh-floxed, DBH-CreERT2マウスの交配によってSpr-floxed, DBH-CreERT2マウスを作成する。Cre活性誘導のための条件を決定し、交感神経および副腎髄質でSpr遺伝子を誘導的に破壊して、TH・モノアミンの変化と表現型の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に定量的RT-PCRを行うため、試薬を購入する。
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