本研究では、リンパ管を構築する細胞(内皮細胞、平滑筋細胞)が、炎症時にどの様に変化するかを明らかにすることを目的としている。申請者は、これまで得られた知見を基に、間質構成要素としてリンパ系に着目し研究を進めている。研究は以下の4項目:(1)リンパ管平滑筋/内皮細胞の生理機能変化、(2)病態モデルを用いたリンパ管構成細胞の炎症時における形態・機能変化、(3)リンパ管構成細胞の炎症性サイトカインに対する応答、(4)リンパ管構成細胞が炎症性物質の産生能を有する可能性、で構成されるが、本年度は(1)(2)の項目がまとまり論文公表を行うことが出来た。掲載誌はJ Pharmacology and Experimental Therapeutics(2021 379:117-124)であり、American Pharmacological Societyが発行する著明誌である。研究内容は以下の通りである。高血圧モデルラットSHRにおいて、Streptococcus由来の菌体毒素streptolysin-O(SLO)の血中濃度が上昇していた。SLOの血管内皮細胞に対する影響を検討したところ、PKCベータを介してeNOSの燐酸化を促進し、eNOS活性を阻害して内皮依存性弛緩反応を抑制することを見いだした。SLOをラットに投与すると、アセチルコリンで誘導される内皮依存性の血圧下降が抑制されることも見いだされた。以上の知見から、Streptococcus毒素による高血圧発症という、新たな循環病態の機構の存在が示された。現在、血管で得られた知見をリンパ管内皮細胞に応用するとともに、これら2つの脈管系の平滑筋細胞への影響についての検討を継続している。データもほぼ出そろい、本年度中の論文投稿を予定している。
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