研究課題/領域番号 |
19K07341
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
守田 匡伸 東北大学, 医学系研究科, 講師 (10519094)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 硫黄呼吸 / エネルギー代謝 / ゲノム編集 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアにおいてシステインから合成される硫黄代謝物(パースルフィドなど)が、アミノアシルtRNA酵素の一つであるCARS2や硫化水素キノン還元酵素(sulfide-quinone reductase, SQR)によって産生・代謝され、エネルギー代謝に関与することが示唆されている(Akaike et al., Nature Commun. 2017)。これは、生物が酸素のみならず硫黄代謝物を利用してエネルギー代謝を営むことを意味している(イオウ代謝・呼吸)。この硫黄代謝の生体内における機能を分子レベルでのメカニズムを明らかにするため、CARS2、SQRの遺伝子改変マウスの作製および解析を行った。CRISPR/Casシステムを用いた精緻なゲノム編集により、パースルフィド活性のみを欠損したパースルフィド不活性化(CARS2点変異)マウス、さらにミトコンドリア移行シグナルを欠損したミトコンドリア選択的SQR欠損マウス(SQR欠損マウス)の作製に成功した。CARS2点変異マウスは胎生致死を示し、SQR欠損マウスは生後3週間以降より成長遅延を示し生後3ヶ月以内に死亡した。解析を進めたところ、これらの遺伝子改変マウスはミトコンドリアにおける硫黄代謝異常を認め、硫黄代謝・呼吸が選択的に抑制された極めてユニークな硫黄代謝不全(エネルギー代謝異常)マウスの開発に成功した。CARS2点変異マウスは胎生致死を示すので、成体での解析が困難であるが、トランスジェニックマウスによるレスキュー法を現在進めており、さらに他の硫黄代謝酵素群であるETHE1、3MST、TSTの遺伝子改変マウスの作製も完了している。これらの遺伝子改変マウスを詳細に解析することで硫黄代謝・呼吸の生体内における機能を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CARS、SQRの遺伝子改変マウスの作製に成功し、その表現型解析は順調に進んでいる。さらに他の硫黄代謝酵素、ETHE1、3MST、TSTのノックアウトマウス作製も完了し、バイオリソースの充実も進展している。パースルフィド活性を失ったCARS2点変異マウスは胎生致死を示すが、トランスジェニックマウスによるレスキュー法により成体での機能解析を進行中である。3MST、TSTは隣接した遺伝子であるため、それぞれの単独KOマウスを交配することでダブルKOマウスを作製するのは大変に困難であるが、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集を行うことで3MST:TSTダブルKOマウスを樹立することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
既に作製した硫黄代謝酵素群の各遺伝子改変マウスの表現型解析を継続して進める。具体的には各組織についての病理標本解析、代謝産物の測定、遺伝子発現解析を行い、硫黄代謝異様に伴うミトコンドリア機能不全を分子レベルで明らかにする。各種硫黄代謝酵素遺伝子改変マウスの硫黄代謝を解析することで生体内における硫黄代謝動態の解明が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画を効率的、計画的に進めた結果、予定より少ない直接経費で硫黄代謝酵素群関連遺伝子改変マウスの作製を概ね達成することができた。一方で、解析すべき遺伝子改変マウスの系統の追加が生じたため、その経費を次年度分として運用することとした。その内訳としては、硫黄代謝酵素の生体内での機能解析のための実験に関する試薬や消耗品などの物品費に使用する。また、研究成果を論文にまとめ投稿するための英文校正や論文投稿費として使用する。
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