血小板製剤は、様々な医療局面において必要とされる血液製剤であり、現在では献血に依存して製造している。血小板製剤はその特性上、使用期限が4日間と短く、供給不足に陥るリスクを常に孕んでいる。この問題の解決を目指し、我々はiPS細胞技術を応用した血小板の大量生産を目標としている。先行研究によりiPS細胞から誘導した巨核球と呼ばれる血小板前駆細胞に、Doxという薬剤に依存して促進遺伝子を発現し無限の増殖能力を持つimMKCL細胞株が樹立された。そして、imMKCLはDoxを除去すると分化を開始し、5日という短期間に成熟過程を終えて血小板を産生することから、血小板製剤の工業的生産のための優れたツールとなりうる。一方で、Dox除去しても全てのimMKCLが血小板を産生するわけではなく、巨核球分化の最終段階であるproplateletを形成するのは全体の1割以下である。現時点においてimMKCLの細胞集団が持つこのような分化能力の不均一性についての分子メカニズムは全く明らかではない。 本研究では、imMKCLが内包する分化不均一性の原因が明らかとし、人工血小板の効率的な産生に結びつけるため、proplateletの有無という形態学的特徴に基づいて細胞を選別し、シングルセルレベルの網羅的発現比較解析を行った。さらに、細胞集団レベルでの網羅的代謝解析も行い、Dox除去後の5日間という分化過程においてimMKCLがいかなる変化を経て血小板放出に至るか、そのプロセスを詳細に解析した。当該年度において、そうした解析により予想された、巨核球成熟に主要な役割を果たすと考えられるパスウェイに摂動を加え、血小板産生への影響を調べた。その結果、脂質代謝経路が血小板産生の重要な鍵を握っていることを明らかとした。
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