研究課題/領域番号 |
19K07348
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坂元 一真 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (60612801)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 受容体型チロシンフォスファターゼ / リン酸化 / 基質 / 軸索再生 / 近位依存性ビオチン標識法 / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、受容体型チロシンフォスファターゼの網羅的な基質同定を試みるものである。特にコンドロイチン硫酸・へパラン硫酸受容体として、中枢神経損傷後の神経軸索再生阻害に関わる受容体型チロシンフォスファターゼであるPTPRσの細胞内基質を網羅的に同定することにより、この病態の理解と克服を目指す。 これまでの研究において、近位依存性ビオチンラベル法によりPTPRσ相互作用分子の解析を行い、約100の候補分子をリストアップした。本年度はこの中で特に神経細胞において発現しており神経軸索の伸長に関与しているものの、これまでチロシンリン酸化・脱リン酸化による制御の報告が乏しい分子についていくつか選択し解析を行った。以下これら分子を「候補分子」と呼ぶ。 まず候補分子がチロシンリン酸化されていることを確認するため、HEK293T細胞に候補分子を強制発現させタグ抗体で沈降させた後、そのチロシンリン酸化をリン酸化チロシン抗体4G10により確認した。さらに質量分析計によるリン酸化プロテオミクスを行い、リン酸化チロシンサイトの推定を行った。このチロシンのフェニルアラニン置換体を作成し、同様にHEK293T細胞に発現させたところ、4G10の反応性が消失していた。このことから、これらサイトがリン酸化チロシンサイトであることを同定できた。これら候補分子のリン酸化チロシンがPTPRσによって脱リン酸化されることを確認するため、HEK293T関して候補分子と同時にPTPRσを共発現させたところ、やはり4G10の反応性が減弱していた。 以上の結果から、近位依存性ビオチンラベル法でスクリーニングされたこれら候補分子がPTPRσの直接的な基質であることが示唆された。 次年度はこれら候補分子のチロシンリン酸化・脱リン酸化の、特に神経軸索伸長における生物学的な機能を解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通りの研究が実施できた。近位依存性標識法を用いることによって酵素の新規基質を捉えることができたことの意義は大変大きい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた候補分子についてさらに解析を行う。まずチロシンリン酸化された候補分子を精製し、組換え型PTPRσと反応させることで脱リン酸化反応を確認する。引き続いて、このリン酸化チロシンに特異的なモノクロ―ナル抗体を作成する。 次に、この抗体を用いて候補分子のチロシンリン酸化・脱リン酸化の、特に神経軸索伸長における生物学的な機能を解析していく。成体後根神経節細胞の初代培養系を用いて、再生軸索・再生阻害軸索間において候補分子のチロシンリン酸化状態を免疫染色において定量する。PTPRσの生理的基質であるならば、再生阻害軸索においてそのチロシンリン酸化が減弱していることが想定される。そのうえでこの候補タンパク質の脱リン酸化が軸索再生阻害に関与しているかを検討する。候補分子をノックダウンし、健常神経細胞において軸索再生阻害が起きること、さらにこの表現型がチロシンリン酸化mimic変異体・チロシンリン酸化dead変異体でレスキューできるかどうかを検討する。
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