研究課題
「トリアシル型リン脂質」であるN-アシルホスファチジルエタノールアミン(N-アシル-PE)は、脂質メディエーターの一種である脂肪酸エタノールアミド(N-アシルエタノールアミン)の前駆体として知られるが、生理的意義については不明な点が多い。本研究では、PEのアミノ基に別のリン脂質分子から脂肪酸鎖を転移してN-アシル-PEを合成するN-アシルトランスフェラーゼ活性を有することが明らかになっているcPLA2εとPLAAT-1に焦点を絞り、N-アシル-PEの哺乳動物における存在意義とともに、両酵素の役割の違いを解明することを目的とする。1年目の令和元年度は、以下の研究を実施した。1)cPLA2εとPLAAT-1をそれぞれ安定的に発現する哺乳類細胞株を樹立した。これらの細胞の培地にカルシウム・イオノフォアを添加すると、前者ではN-アシル-PEの細胞内レベルが著増したのに対し、後者では変化が認められず、生細胞内でもCa2+依存性の有無が明確に示された。2)脳のホモジネートのN-アシルトランスフェラーゼ活性は、幼少期に高く成長につれて低下する。野生型マウスを用いてcPLA2εとPLAAT-1の週齢ごとに脳のmRNAレベルをPCRで測定したところ、前者は出生直後が最も高く、成長とともに低下するのに対し、後者ではむしろ漸増した。幼少期に高い酵素活性はCa2+依存性を示すことからも、責任酵素はcPLA2εであると考えられた。3)摘出後、暫く放置した脳は一種の脳虚血モデルであり、N-アシル-PEが蓄積する。このように処理した野生型マウスとcPLA2ε欠損マウスの脳を用いてLC-MS/MSで脳内のN-アシル-PE含量を測定したところ、野生型で観察されたN-アシル-PEの蓄積はcPLA2ε欠損マウスでは認められなかった。このことから本現象の責任酵素はcPLA2εであると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題に沿った研究を実施した結果、マウス脳においてN-アシルトランスフェラーゼ活性を有することが明らかになっているcPLA2εとPLAAT-1の2つの酵素について、生理的役割の違いが明らかになりつつあることから、現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断した。
遺伝子欠損マウスの飼育、繁殖は順調であり、初年度(令和元年度)の研究成果も期待通りであることから、当初の研究計画に従って、今後の研究を推進したい。
(理由)見積額より購入額が低かったため(使用計画)次年度の薬品購入費用に充てる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
ビタミン
巻: 94 ページ: 190-196
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular and Cell Biology of Lipids
巻: 1864 ページ: 158515~158515
10.1016/j.bbalip.2019.158515
医学のあゆみ
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http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~biochem/index.html