研究課題
「トリアシル型リン脂質」であるN-アシルホスファチジルエタノールアミン(N-アシル-PE)は、脂質メディエーターの一種である脂肪酸エタノールアミド(N-アシルエタノールアミン)の前駆体として知られるが、生理的意義については不明な点が多い。本研究では、ホスファチジルエタノールアミン(PE)のアミノ基に別のリン脂質分子から脂肪酸鎖を転移してN-アシル-PEを合成するN-アシルトランスフェラーゼ活性を有することが明らかになっているcPLA2εとPLAAT-1に焦点を絞り、N-アシル-PEの哺乳動物における存在意義とともに、両酵素の役割の違いを解明することを目的とする。2年目の令和2年度は、以下の研究を実施した。1)cPLA2εとPLAAT-1の遺伝子欠損マウスを安定的に飼育及び繁殖させ、通常の飼育環境では、両マウスの形態や行動に明らかな異常を認めないことを明らかにした。2)PLAAT-1の遺伝子欠損マウスに高脂肪食を投与したときの体重増加が、野生型マウスと比較して少ない傾向が見られたが、その差が有意であるか否か、引き続き検討を進めている。3)cPLA2は6種類のイソフォームから成ることから、cPLA2ε以外のα、β、γ、δ、ζの5種類がN-アシル-PEの代謝に関与する可能性について検討した。その結果、cPLA2ε以外のイソフォームには、N-アシル-PEの生成能、すなわちN-アシルトランスフェラーゼ活性は認められなかったが、N-アシル-PEを加水分解してN-アシル-リゾPE及びグリセロホスホ-N-アシルエタノールアミンを生成する活性を示すものが見出され、N-アシル-PEからN-アシルエタノールアミンを生成する経路に係わる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
研究課題に沿って、トリアシル型リン脂質のN-アシルホスファチジルエタノールアミンを生成するN-アシルトランスフェラーゼ活性を有する主な酵素であるcPLA2εとPLAAT-1の遺伝子欠損マウスを入手または作出し、これらを安定的に飼育及び繁殖できていること、そしてこれらのマウスを用いた実験に着手していること等から、現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断した。
遺伝子欠損マウスの飼育及び繁殖は順調であることから、当初の研究計画に沿って、今後の研究を推進したい。遺伝子欠損マウスへの高脂肪食の投与による影響について詳しい検討を行う予定である。
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生化学
巻: 92 ページ: 666-679
10.14952/SEIKAGAKU.2020.920666
化学と生物
巻: 58 ページ: 599-605
http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~biochem/index.html