研究課題
「トリアシル型リン脂質」であるN-アシル-ホスファチジルエタノールアミン(N-アシル-PE)は、脂質メディエーターの一種であるN-アシルエタノールアミンの前駆体として知られるが、生理的意義については不明な点が多い。本研究では、PEのアミノ基に別のリン脂質分子から脂肪酸鎖を転移してN-アシル-PEを合成するN-アシルトランスフェラーゼとして働くcPLA2εとPLAAT-1の役割の解明を目指した。マウスの脳内のN-アシルトランスフェラーゼ活性は、幼少期に高く成長につれて低下する。脳内mRNAレベルはcPLA2εでは出生直後に最も高く、成長とともに低下するのに対し、PLAAT-1では逆に漸増した。cPLA2ε欠損マウスでは活性が消失することからも、責任酵素はcPLA2εであると考えられた。摘出後、暫く放置した脳は一種の脳虚血モデルであり、このモデルを用いて脳の脂質レベルを測定したところ、野生型マウスで観察されたN-アシル-PEの蓄積はcPLA2ε欠損マウスでは認められず、本現象の責任酵素もcPLA2εであると考えられた。cPLA2は6種類のイソフォームから成ることからε以外のα、β、γ、δ、ζの5種類がN-アシル-PEの代謝に関与する可能性を検討した。その結果、いずれもN-アシルトランスフェラーゼ活性は認められなかったが、γにはN-アシル-PEを加水分解してN-アシル-リゾPEとグリセロホスホ-N-アシルエタノールアミンを生成する活性が認められ、γがN-アシルエタノールアミン生成経路に含まれる可能性が示された。一方、PLAAT-1の遺伝子欠損マウスは、通常の飼育では形態や行動に明らかな異常を認めなかったが、高脂肪食投与時の体重増加が、野生型マウスと比較して小さく、肝臓での脂肪蓄積も激減していた。肝臓での脂肪合成に関わる遺伝子の発現が全般的に抑制されていることも見出した。
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