自閉症は,社会適応能力の障害やコミュニケーション障害,活動および興味の反復性を主徴とする広汎性神経発達障害である。双生児研究や家族歴研究からその背景には強い遺伝素因があることは明らかであり,10数個ものシナプス関連遺伝子が関与していると言われているが,未だその全容は明らかにされていない。こうした中,「オキシトシン」と呼ばれるペプチドホルモンが自閉症症状の軽減に有効であるという臨床報告がなされるようになった。オキシトシンは,もともと子宮収縮や乳汁分泌に関与する下垂体後葉ホルモンとして知られていたが,最近の研究で「他人への信頼」が増す効用があることが明らかとなっている。そこで,本研究ではOXTR遺伝子のエンハンサーのエピゲノム状態が遺伝的要因・内分泌要因・環境要因といった複合的な要因により,どのように変化し遺伝子発現に影響を与えるか解析することで神経発達障害発症における性差の分子基盤を明らかにする。当該年度は,自閉症モデルマウスであるCd38欠損マウス及びCd157欠損マウスにおけるOxtr遺伝子やAvpr遺伝子のエピゲノム状態(DNAメチル化)の解析を行った。また,胎生期E11.5にバルプロ酸を投与するモデルおよびPolyI:Cを投与するモデルにおけるエピゲノム解析も実施した。具体的には,いずれのモデルマウスにおいても,28日齢のマウス大脳皮質からDNAを抽出し,Oxtr遺伝子やAvpr遺伝子のエンハンサー領域のメチル化状態を雌雄別に解析した。その結果,Cd38欠損マウス及びCd157欠損マウスにおいて,Oxtr遺伝子やAvpr遺伝子のエンハンサー領域のメチル化は,低メチル化状態であることが明らかとなった。一方,PolyI:Cを投与するモデルにおいては,正常マウスと比較してDNAメチル化が有意に更新していることが明らかとなった。
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