研究課題/領域番号 |
19K07367
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
網代 将彦 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (60761864)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | RNAスプライシング / 偽エクソン / 遺伝病 / がん / 嚢胞性線維症 / 家族性自律神経異常症 / CLK阻害剤 / 人工知能 |
研究実績の概要 |
研究計画2年目である令和二年度は、偽エクソン型スプライシング変異として嚢胞性線維症の代表的な原因変異の一つであるCFTR遺伝子c.3849+10kb C>T変異を対象とした解析を進め、その成果を国際科学誌に責任著者として報告した(Shibata, S. et al. Cell Chemical Biology 2020)。我々はスプライシング制御因子であるserine/arginine-rich splicing factor (SRSF)ファミリーが偽エクソン領域の認識に必須であることを示し、低分子化合物によりその活性を抑制することでスプライシングの正常化とCFTRの機能が回復することを示した。 上記成果の他、関連疾患における偽エクソン型スプライシング変異を再現したトランスジェニックマウスを作製し、当初の計画に沿ったスプライシング評価系統の取得に成功した。また、米国コールドスプリングハーバー研究所 Krainer博士との共同解析から低分子化合物による家族性自律神経異常症原因スプライス異常(IKBKAP遺伝子 IVS20+6T>C変異によるエクソン20スキッピング)が個体レベルで是正可能であることを示した(Ajiro, M. et al. Nat. Commun. in press)。さらに英国West of England大学 Ladomery博士との共同解析から前立腺がん細胞の縮小がCDC様キナーゼ阻害剤処理により認められることを報告した(Uzor, S. et al. Sci. Rep. 2021)。 さらに、スプライシング異常解析の新しいアプローチとしてスプライシング型変異を人工知能で予測解析するシステムの構築に取り組み、予備解析として偽エクソン型スプライス異常を高精度に予測することに成功した(第43回分子生物学会年会において報告)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
偽エクソン型深部イントロン変異の代表例の一つとして知られる嚢胞性線維症CFTR遺伝子c.3849+10kb C>T変異について、CDC-like kinase (CLK)およびserine/arginine-rich splicing factor (SRSF)を介した偽エクソン認識メカニズムを明らかにし、CLK阻害剤のスクリーニングから高活性化合物(CaNDY)を単離するとともに、CLK阻害剤処理による偽エクソン認識の抑制と塩化物イオンチャネルの回復を確認することに成功した。さらに、偽エクソン型スプライシング異常を模したトランスジェニックマウス系統の取得にも成功し、当初計画していた内容を計画よりも早期に達成することが出来た。また、これらの成果に基づき、偽エクソン型深部イントロン変異に対する人工知能解析の適用を試みるなど、新しい要素を取り入れた解析に着手した。国内外の医療機関と連携したスプライシング疾患解析についても既に複数の共同研究を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通して、低分子化合物によるスプライシング異常の抑制という創薬アプローチのコンセプトを実証することに成功した。現在、さらに複数の偽エクソン型疾患モデルについて、細胞・個体レベルの解析を進めており、本創薬コンセプトのさらなる実証研究とする。さらに、近年急速な発展を見せる人工知能解析をスプライシング研究に取り入れるなど新しい要素を積極的に取り入れることで、本プロジェクト完了時の達成度をより高いものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
疾患スプライシング解析について順調に進捗し、想定よりも支出金額を抑制して解析目標が達成された。また、人工知能解析等の予備検討でも想定を超える支出の必要は生じなかった。次年度はトランスジェニックマウスや複数の細胞リソースを導入した解析を予定しており、費用抑制分を次年度支出額として計上することで研究遂行の効率化を図るよう計画した。
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