研究課題/領域番号 |
19K07368
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
伊集院 壮 神戸大学, 医学研究科, 助教 (00361626)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | INPP5K / カルシウム代謝 / STIM1 / ミオパチー / ジストロフィー |
研究実績の概要 |
INPP5Kはホスファチジルイノシトール4,5-2リン酸[PI(4,5)P2]を脱リン酸化して、ホスファチジルイノシトール4-1リン酸[PI(4)P]を産生するホスホイノシチドホスファターゼファミリー分子の一つである。ホスホイノシチドホスファターゼ分子の多くが疾患と関連しているが、INPP5K遺伝子の変異がミオパチーやジストロフィー様の症状を引き起こすことが報告されている。これらの変異はいずれもPI(4,5)P2ホスファターゼ活性を低下させるものであるが、その原因は理解されていない。本研究ではINPP5Kの不活性化がミオパチー様の症状を認める原因を知る目的で、INPP5K遺伝子欠損細胞の表現型を解析した。その結果、INPP5K欠損細胞ではホスファチジルセリンの細胞膜表面への表出が認められ、その結果細胞同志の融合が顕著に促進されていた。また、その原因はストア依存性カルシウム流入の恒常的な促進であった。これらの現象はINPP5Kの酵素活性に依存していないことや、INPP5Kがカルシウム流入が起こる小胞体と細胞膜接触部位におけるPI(4)P産生に寄与していないことをが明らかになった。しかしながら、INPP5Kがホスファチジルセリンの細胞表面への表出を制御していることは、細胞死のメカニズムを知るうえでも大変興味深い現象である。 また、INPP5Kは小胞体の形態をコントロールする分子であるが、私はINPP5Kがチューブリンと相互作用していること、この相互作用を失うとINPP5Kの小胞体への局在を失い小胞体が膨張することを明らかにし、Translational and Regulatory Sciences誌で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、INPP5Kの遺伝子欠損がストア依存性カルシウム流入を促進すること、その結果筋芽細胞の細胞間融合を促進することを明らかにした。INPP5Kの欠損はストア依存性カルシウム流入を担うSTIM1分子とOrai1分子の恒常的な会合と細胞内カルシウムの恒常的な上昇を引き起こした。この表現型はSTIM1分子の恒常的な活性化変異と類似している。細胞内カルシウムの恒常的な上昇は骨格筋における分化時の細胞融合を促進するが、実際にINPP5K欠損細胞において細胞膜表層へのホスファチジルセリンの表出と細胞融合の促進が認められた。細胞表面へのホスファチジルセリンの表出は、血小板の活性化による血液凝固反応や、アポトーシスによる細胞死の際に認められる。また、ストア依存性カルシウム流入の異常はがん細胞の悪性化やオートファゴソームの不活性化を引き起こす。これらはINPP5Kの欠損ががん細胞の悪性化や浸潤転移能の増悪に関与している可能性を示唆している。その原因として当初は、小胞体と細胞膜の接触部位におけるホスホイノシタイド代謝の異常を考えていたが、実際にはINPP5Kがこの部分におけるPI(4,5)P2やPI(4)Pの量を変化させることはなかった。現在は、STIM1タンパク質の分解経路に着目して、INPP5KがSTIM1分子の多量体に物理的にアクセスする仕組みの解明に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ストア依存性カルシウム流入を担うSTIM1遺伝子とOrai遺伝子の恒常的な活性化は管状凝集体ミオパチーやStormorken症候群の原因となることから、本研究の主な課題である、INPP5Kの不活性化によるミオパチー病態の誘導に関して、INPP5K不活性化によるストア依存性カルシウム流入の増加がミオパチーの原因となる可能性が十分に考えられる。管状凝集体ミオパチーはSTIM1を含む小胞体の凝集体を特徴とする疾患であることから、今後は管状凝集体の特徴を細胞生物学的・生化学的手法で解析を行い、INPP5Kの不活性化が生理的に起こる原因と、その結果ミオパチーの病態が誘導される原因とを理解することを目的として研究を推進していく予定である。 また、ストア依存性カルシウム流入の抑制機構については、ほぼ小胞体-形質膜の接触部位におけるオルガネラバイオロジーの領域から解析が行われてきた。しかしながらこれまでの私の結果からINPP5Kはこの部分におけるホスホイノシチド代謝を行っていないことが分かっている。INPP5Kによる膜接触に関係ない新しいストア依存性カルシウム流入機構の解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった、細胞生物学実験に使用するスライドグラス(1500円相当)を次年度に発注・納入することに決定した。そのために、1629円の次年度使用額が生じた。
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