本研究課題で着目した病態生理現象は、我々が見出した「二本鎖RNA結合タンパク質NF90-NF45の高発現による骨格筋萎縮」である。当該萎縮は、NF90-NF45 dbTg miceにおいて確認される。本研究課題の遂行により、当該萎縮の要因として下記のことが明らかとなった。 ・骨格筋形成において筋芽細胞の「細胞融合」は必須である。当該「細胞融合」のマスター因子であるMyomaker (MYMK)/Myomixer (MYMX)は、細胞融合時にのみ発現し、その後、当該発現が低下することで、骨格筋は成熟化する。ところが、NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋ではMYMK/MYMXが恒常的に発現しており、このことがNF90-NF45 dbTg miceの骨格筋萎縮を引き起こす要因と考えられた。 ・MYMK/MYMX遺伝子の発現は筋分化制御因子MyoD及びMyogenin (MyoG)によって促進する。NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋におけるMYMK/MYMXの恒常的発現は、NF90-NF45の高発現により引き起こされる「lncRNA(pri-miR-378a)蓄積-miRNA(miR-378a-3p)産生低下-mRNA(MyoG mRNA)発現上昇」のネットワークに起因する可能性が見出された。 ・上記ネットワークに加え、NF90-NF45によるMyoDの転写活性能促進がNF90-NF45 dbTg miceの骨格筋におけるMYMK/MYMXの恒常的発現に関与する可能性が考えられた。 今後は、これまでに我々が見出したNF90-NF45によるmiRNA生合成制御と本研究により見出したNF90-NF45によるMyoDの質的変化(転写活性能促進)の関連性を明らかにし、「病態生理現象(骨格筋萎縮)におけるmiRNA-lncRNA-mRNAクロストーク」の解明をさらに推し進める予定である。
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